D2Cブランドが起こした革命

林:後半のトークセッションでは「顧客より“コミュニティ” これからのブランドデザイン」というテーマでお話をします。まずお二方の自己紹介をお願いします。

佐々木:はじめまして。Takramという会社でコンサルティングをやっている佐々木です。ブランドの立ち上げサポートなどをさせていただいております。最近は特に「D2C」というテーマに注目しており、最近は本も書かせていただきました。よろしくお願いします。

石川:KESIKIという会社の石川です。もともと工業デザインをしていたのですが、最近は企業をデザインするなど、モノからヒトに対象が移りましたが、変わらずにずっとデザインを仕事にしています。

林:今日はわたしは消費者代表というか素人代表としてまいりました(笑)。まず、佐々木さんから、D2Cが起こした革命について資料もご用意いただいたので、説明をしていただけますか。

佐々木:詳しくは、最近出したこちらの本、『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』を読んでいただきたいのですが(笑)、D2Cについて簡単に紹介すると、ブランドと消費者の間に存在した広告代理店と流通という2つの壁を取っ払った仕組みのことです。よく“中抜きモデル”なんて言われますが、それだけでは正確には表せていない。ブランドと顧客の間に誰もいないので、ちゃんと良いメッセージを発し続けていれなければ、友達が離れていってしまうような関係です。

たとえば「CASPER」という寝具ブランドや、アイウエアの「WARBY PARKER」、スーツケースを扱う「AWAY」など。今日はそれぞれの詳しい事業は説明しませんが、いろんな業界で大きな変化が起きているということだけ覚えておいてください。「AWAY」はスーツケースを売っているのではなくて、旅を売っています。売り物が旅なので、旅に行きたくなるような雑誌を作ったり、スーツケースを作ります。プロダクトブランドではなく、ライフスタイルブランドなんですね。

旅をテーマにした「Away」は「LOUIS VUITTON」と何が違う?

林:素人からすれば、「Away」が旅のブランドであるというのは、「LOUIS VUITTON」の創業時のストーリーに似ていると思うんです。この2つは何が違うのですか?

佐々木:大きく違うのは生まれた場所です。「LOUIS VUITTON」はファッション業界に生まれたブランドですが、「Away」はインターネットに生まれたブランド。だから、彼らは行動の仕方も組織の作り方も言葉使いも、全てがインターネット企業的。ぱっと見はスーツケースを売っているんですが、一枚皮を剥がせば、彼らはテック企業です。

石川:「Cotopaxi」というソルトレイクシティにあるD2Cのアウトドアブランドがあります。ネクスト・パタゴニアとも呼ばれる彼らは、アウトドアフェスを主催し、そこに集まった人たちにバックパックを配ることで、ファンを増やしました。カラフルなバッグが特徴なのですが、この配色はフィリピンにある工場の人たちが決めているんですね。つまり、生産者が好きな色を決めるデザイナーの役割を担っている。ユーザーだけでなく、生産者もこのブランドに対して思い入れを持っているわけです。D2Cブランドの特徴として、誰に愛されているのか、信じてもらっているのかが大事なんじゃないかと思います。

林:石川さんは「無印良品」の事例を挙げられていましたが。

石川:「強いブランド」「愛されるブランド」を作る上で、やっていることと言っていることが一致しているかどうかは大切です。D2Cと聞くと、テクニカルな話が多いんですが、そもそもブランドが愛されていないとファンはできないと思うんです。作る人が自分のブランドが好きで、買う人もそのブランドの思想をわかっている。そのもっとも良い例が「無印良品」だと思います。

D2Cはトレンドワードなのか

林:時代の流れとして、大企業も含めてD2Cをやらなければいけないという焦燥感みたいなものがあって、トレンドワードになってしまっている気がするのですが。


佐々木:D2Cブランドには、どうやって売るのか、何を売るのか、なぜやるのか、という3つのレイヤーがあります。どうやって売るのか、つまり「HOW」についてはネットにたくさん記事があるので見てほしいのですが、「HOW」だけ考えて、ブランドの伝えたいメッセージがなければ、それはすぐに消費者にバレてしまいます。わたしはD2Cにおいてもっと本質的な議論をしていくべきだと思っています。

石川:この話をわかりやすく伝えると、自分が好きな人に対して、等身大の自分を見せられるかどうかという話だと思っていて(笑)。D2Cになると、まず等身大の自分を見つけて、原点に立ち返る必要が出てくるわけです。つまり、言っていることをちゃんとやれるブランドになれるかということです。D2Cは透明感を打ち出しているからこそ、自分らしく本質的なことをやらなければ意味がありません。

佐々木:消費者とブランドの関係が恋愛っぽくなっているという点は100%同意します(笑)。これまでのブランドは結婚式がゴールだったんです。式を挙げたらOKみたいな。

石川:しかも、消費者と生産者という垣根もなくなってきていて、みんなが参加者のようなイメージです。その時にブランドとしての求心力を持っているか。宗教じゃないですが、本気で思想がないとバレるじゃないですか。

林:少し前に出てきた「愛されるブランド」について詳しく教えていただけますか?

石川:このような図を作ったのですが、左側が会社のデザインで、右側がプロダクトのデザインです。そして、「愛される会社」では、この両輪が回りながら両立されなければいけません。思想や哲学が会社にあって、アウトプットでそれを体現できている。これは別にD2Cブランドじゃなくても、「patagonia」や「無印良品」でも一緒です。自分たちのカルチャーを定めることで、社員も理解しやすし、そのカルチャーのためにどういうものを作るかが右側にくる。

林:それが正直とか本物につながると。

石川:そうです。こういう考え方があってもいいんじゃないかと思います。これも恋愛に置き換えると、やっていることと人格がともなっていないと愛されないよねという話(笑)。SNSによって、それがわかってしまう時代になっているんですね。

愛されるブランドの秘訣

林:お二方が認める「愛される会社」はあるんですか?

佐々木:石川さんは今日「Allbirds」のスニーカーを履いていますが、ぼくも大好きで持っていて。今年初めて日本にお店ができましたが、今はサイズがなくて買えないくらい人気のブランドです。創業者が来日した時にインタビューをしたのですが、彼らは社員や顧客、社会という“ステイクホルダー”に対して、バランスのとれた形でビジネスをやることが重要だと言っている。彼らはもはや“公益企業”だと言っています。

D2Cはビジネス的な視点ばかりが取り上げられますが、お金を稼ぐ以上に、社会に対してどんな意義があるかを考えて地道にやっているんですね。たとえば「Allbirds」もサステナビリティを重要視しているから、独自の天然素材を使って靴を作っています。まさに、言ってることとやっていることが一致しているブランドの好例です。

石川:言ってることとやっていることが一致するってすごく難しいんですよね。「ALLBIRDS」は素材をゼロから開発しているわけで、これはもはやCSRではなく、きちんとした事業の一環でサステナビリティに取り組んでいるんです。海外ではこういったところも投資対象として見られますから。「APPLE」もCSRではなくR&Dとして素材開発に取り組むなど、本気でやっている。「VOLVO」だって、海沿いを心地よく走るために、海をより美しく保つための素材開発を海岸沿いで行っています。

林:なるほど。最後に、D2Cという文脈について今日の話を踏まえて、お二人の感想を教えていただけますか。

石川:ぼくが面白いと思うのは、D2Cというトレンドのおかげで、本当にいいブランドを作らなければいけなくなったことです。はじめて好きな女性をデートに誘う時の徹底した準備みたいな(笑)。最初に買ってほしいお客さんの顔が思い浮かぶくらいまで考えて、それくらい体験の設計をやりきること。こういうブランドが増えれば、面白い時代になるんじゃないかなと思います。

佐々木:D2Cは壮大な「HOW」ではあるんですが、もっと引いて考えると、自分が届けたいミッションをどれだけ純度高く届けられるかという大目的があります。そのための「HOW」です。この順番は逆転しない方が良くて、今ある商品をただ中間マージンを省いて販売するだけではD2Cの意味がない。もちろん、販売後にお客さんからフィードバックをもらって改善することもありますが、より本質的なブランドが生まれるためにはこの流れを意識することが重要だと思います。