10年間でファッション業界に何が起きるか

九法:モデレーターの九法です。今日は「モノから意味の充足へ。価値観とデジタル化で変わる消費」というテーマで話をするんですが、この場所から外の景色を見ていて、いろんな看板が光っている中で(倒産した)「FOREVER 21」の看板が消えているのがすごく象徴的だなあと感じました。まさに変わりゆく消費の流れに乗れなかったのかなと。今日はそんな消費のあり方と、企業が生き抜くためにどうすればいいのかを伺えればと思います。まずは、自己紹介を簡単にお願いします。

河野:シタテルの河野です。今日シタテルとして新しい3つのサービスを発表したのですが、その中でSPECという受注販売のサービスがあります。これがデジタル・ネイティブ・ブランド(DNB)に向けたサービスなので、どんなことができるのかをふまえて、お話できたらいいなと思います。

福田:ローランド・ベルガーの福田と申します。わたしはコンサル会社で消費財チームのリーダーをしております。一方で、シタテルの社外取締役もやっています。これまで日本の大企業を見てきて、変化が遅く、業界全体を変えることは難しいと痛感してきました。そこで、業界全体へのインパクトを考えて、メディアでの発信やスタートアップ支援などをするようになりました。今日は大企業、スタートアップ両方の観点からお話ができればと思います。

九法:では、まず最初の質問を。ファッションを中心としたリテール市場において、消費者の価値観はどう変わってきているのでしょうか。

福田:資料があるのでお見せしますね。これからの10年間、アパレル業界において、これら4つの変化が起こると考えてます。「消費のあり方の多様化」「サステナビリティ対応の必要性」「サプライチェーンのデジタル化」「ディスラプターによる業界構造の破壊と創造」です。少しだけ中身を説明しますと、消費のあり方の多様化について、価値観のようなソフト面の変化とデジタル化というハード面の変化があると思っています。

今の時代に不足しているのはモノよりも“意味”なんですね。どうやったら幸せに生きられるのかということです。その結果として、ミニマリストのような生き方やアウトドアによって精神充足をするなど、消費のあり方が多様化してきた。消費そのものが自己表現・実現のための消費になっているんです。

もう一つ、現代にはサステナビリティの問題があります。日本ではまだまだ消費者の変化が遅いですが、グローバルではすでにファストファッションブランドの大量廃棄問題に対して異を唱えるなど、意識の高い消費者が出てきています。「Everlane」や「Reformation」などのブランドが成功しているのはD2Cだからと思われがちですが、実はそうではありません。D2Cは手段であって、たとえば彼らが環境問題に真摯に取り組んでいたり、そういう意味が消費者に支持されているんだと思います。

洋服から娯楽へ、同じファッションでもお金の用途が変わっている

九法:消費のあり方が多様化しているという話ですが、2014年に創業したシタテルはその流れをどのように感じていますか?

河野:まず、事実ベースでお金の出所が変わってきました。ある共通のテーマ、たとえば「Everlane」ならトレーサビリティとか、そういうところに買う目的が変化してきた。だから同じ洋服を買うにしても、洋服代ではなく、そういう共通のテーマに沿った、趣味・娯楽費としてお金を使うケースが増えているんです。

九法:確かに「Everlane」は単純にモノとしての機能ではなく、トレーサビリティや地球環境に対する姿勢といったブランドの思想や哲学を支持して購買する層が多い印象がありますね。シタテルでは、そうした消費のあり方の変化は具体的にどのような形で表れていますか?

河野:たとえば、アパレル企業ではない事業者さんが洋服という手段を使って、ファンとのコミュニケーションを円滑にする事例があります。「Art Hub Media」というアートのプラットフォームは、洋服をキャンバスにしてアートを販売しています。そのチャネルに受注販売ECパッケージ「sitateru SPEC」を使っていただいているのですが、高価格帯のコートでも、ファンはアートとして買っている。

福田:わかりやすい例でいうと、好きなアーティストのグッズを買うことは確実に増えていて、CDの売り上げが減っている一方で、ライブを含めたそのほかのコンテンツ消費は増えているんです。単純に服を買うのではなく、意味が重要だということです。アニメやスポーツもそうですね。「graniph」というデザインTシャツは、Tシャツをキャンバスに見立てるというコンセプトのブランドです。ガンダムとコラボすれば、ガンダムのファンがTシャツを買う。これを積み上げることで大きな売り上げになります。今の時代“ヒートテック”のように単体で爆発的なヒットは生まれないけど、相対的な合算として洋服の売り上げは伸びる可能性があるんです。

九法:なるほど。もう一つ、最初の福田さんの話で「サステナビリティ」の話がありました。これは一過性のトレンドなのか、もっと大きな変化の渦中にあるのか。私としては、後者だと思うのですが、福田さんはいかがお考えですか?

福田:結論から言うと、わたしたちはモメンタム・シフトの真ん中にいて、ライフワークとして取り組むべき課題になっていると思います。少なくともグローバルではそうなっています。背景としては、気候変動がシリアスになっていることがあげられます。アパレル産業は、CO2排出量が全産業の8%を占めるなど、環境負荷の高い産業です。すでに日本企業もこうした対策からは逃れられないですし、今後大きな災害によって日本人の価値観が大きく変わる可能性は高いと思います。

河野:やるかやらないかではなく、事業者としてサステナビリティは当然の活動になっています。今のアパレル業界は、セール後でも不良在庫が20%も残るとされています。そんな中で、SPECという受注生産のサービスを使えば、完全に不良在庫を出さないことも可能です。わたしたちも、一企業としてどういうアプローチが正しいのかを突き詰めながら、シタテルならではのアプローチをやっていきたいと思います。

DNBと既存ブランドの違い

九法:その流れで本題ともいえるDNBについてのお話をしたいと思います。まず、河野さんが考えるDNBの特徴は?

河野:DNBはD2C動線を持っていて、ユーザーと直接会話ができる人たちのことを指します。特徴として、アパレルのスキルを持っていないプレイヤーが多い。ただ、彼らは魅力的なファンコミュニティやコンテンツ、クリエイティブ力を持っています。もう少し詳しく言うと、既存ブランドとDNBを比べた時に、一方的なメッセージの発信から参加型のコンテンツ発信への移行や、露出量よりも一つずつの深さを重要視するなど、これまでのブランドとは真逆の展開をしています。

九法:従来のブランドと新しいDNBの違いは他にもありますか?

福田:DNBのほとんどがミレニアル世代を狙っていて、彼らが共感できる価値を訴求しています。しかも、価値の伝え方がうまいと感じます。ウェブ上でも、自分たちのストーリーを伝える部分を重要視している印象を受けますね。

九法:日本では昨今DNB分野からたくさんブランドが出ています。ただ、まだまだストーリーの伝え方が上手くないようなブランドも多い気がするのですが、福田さんは日本のDNBの状況をどう見ていますか。

福田:日本人にしかわからないニッチなストーリー展開をしているブランドが多いように感じます。今後のスケーラビリティは課題になるかなと、グローバルで成功しているブランドは、最初からグローバルを意識した普遍性のあるストーリーを掲げています。これは大きな課題だと思います。

DNB百花繚乱時代に生き残るブランドは?

九法:では今後、DNBはどう進化していくと思いますか。

河野:「Warby Parker」とか「Allbirds」とか、スケーラブルな事業モデルはすでに出始めています。今後重要なのは、スタートアップでいうシード期、生まれたての状態からどうやっていい発進ができるのか、ファイナンス面なども含めて、これをサポートするエコシステムが必要になると思います。シタテルとしても、SPECによる販売機能、在庫管理、生産支援など、われわれなりのエコシステムを通じてこれからのあり方を考えたいと思っています。

九法:福田さんが考えるDNBの未来は?

福田:DNBってある程度のスケールを目指しているブランドから、服をコミュニケーションの手段にしている個人や小さい規模のブランドまで、多種多様です。シタテルのように簡単に洋服が作れるプラットフォームも出てきて、世の中はどんどん個人が事業活動をしやすい時代になっています。ですので、当面はブランドが増え続けると思います。

九法:最後に、たくさんのブランドが登場する中で、どういうブランドが成功するのか。つまり、お二人は何が成功のカギになると思いますか。

福田:成功の定義にもよると思いますが、ビジネスという観点で見れば、グローバルで成功する要件を備えていることが重要だと思います。国内でも年商数十億円は目指せるけれど、グローバルで一定の消費者に響かないと、それ以上はスケールしません。グローバルに響く価値をどうやって作ることができるか。たとえば、DNBではありませんが「visvim」というブランドは国籍にも偏りなく世界中で“いいものを長く使いたい”という人に広く支持され、人気を博しています。意味の充足が不足する現代の、価値観としてこういった姿勢が求められるのではないでしょうか。

河野:わたしも日本からグローバルに挑戦するブランドが出てくることを願っています。そのためには、ストーリーを作る創業者の審美性が必要ですし、美意識を強化する必要があると思います。

九法:最後にわたしの意見をお伝えすると、ブランドが消費者を啓蒙していくような可能性もあると思っています。実際、「Allbirds」や「Everlane」といったアメリカのDNBは、自分たちの広告やメディアを通して、地球環境に対するメッセージを発信し続けています。ブランド自身が消費者意識を変えるような行動を起こしていけば、消費の変化はさらに大きくなっていくのではないでしょうか。