2017年、ベストセラーとなったビジネス書『誰がアパレルを殺すのか』。アパレルの「危機」は業界の外でも話題になっているからこそ、ベストセラーとなった。そこで、本イベントの第一回目として、アパレルの現状と総論を整理、共有するために著者のお一人、染原睦美さんをお招きした。アパレル業界で今起きていること、ファッションの未来に希望はあるか、といったテーマで、モデレーターのライター、中沢明子氏と語り合った。

(前編)

なぜビジネスメディアはユニクロの話ばかりをするのか

中沢:私はビジネスメディアだけではなく、以前からファッション雑誌でも多少仕事をさせていただいていますので、微妙にファッション業界の「中の人」ともいえるかもしれませんが、このイベントでは消費者代表として素朴に、率直に話をお聞きしたいと思っています。

そこでまずお訊ねしたいのですが、ビジネスメディアはなぜユニクロの話ばかりをするのでしょうか。もう少し詳しく言うと、ユニクロ、ゾゾタウン、しまむら、少し踏み込んでストライプ・インターナショナル、アダストリアまで、といったところですね。しかも数字の話を繰り返ししているだけのように感じます。アパレル業界的には、あまり意味がない気がしています。

一方で、チャレンジングですが小さな規模のメーカーの話を「ものづくり」が素晴らしい、という視点で、これまた繰り返し、すでにどこかのメディアで聞いたストーリーを好意的なスタンス一辺倒で報じます。

染原:なるほど。そういったご質問を投げられたのは初めてで、とても新鮮です(笑)。

ユニクロばかりをとりあげるのはなぜか、という質問に端的に一つ、その答えとして言えるのは、上場しているか、していないか、ですね。経済メディアですから、どういう指標で取り扱うかとなると、彼らの市場からの期待値やインパクト評価が条件になります。

お答えするのが難しいのは、小さな規模のアパレル企業を取り扱う理由です。おそらく、上場企業に対するアンチテーゼだからだろうと思います。拙著にも書きましたが、大きな企業ができていないことを小さな規模ながらやれている、という価値を紹介するためにとりあげるということでしょう。

ただ、今、新聞などがファッション業界はダメだ、と書く一番の理由はユニクロなどがダメなわけではなく、中価格帯の老舗企業と言われる大手4社の売上が落ちたからです。かつて市場規模が15兆円ほどあった中で、オンワードホールディングスやワールドといった4社の売上が2000~3000億円だったものがどんどん落ちていった。そうすると市場がそのままシュリンクしますよね。

この4社が何を見過ごしてきたからこうなったのか――。そこを考える実例として小さな規模のアパレル企業を取り上げる意味合いが強いと思います。

中沢:なるほど。老舗4社がビジネスメディアにとりあげられる際は、確かに悲しい話題が多いですね。

染原:ユニクロがやっているSPAは、本来、老舗が先にやってきたことです。良い商品を作る力は持っているんです。それなりの品質をそこそこの価格で「違いがわかる」消費者に届けることは、もしかしたら、できるようになるんじゃないかと思います。

中沢:私もその方向に行ったほうが良いのではと思っています。

服をどこで買うか、ストーリーを求めるか

中沢:ところで、染原さんはふだん、どこで服を買っていますか。私は書き手自身がどのような消費者であるかは記事のバイアスとして参考になると考えています。

ですからまず私が先に申し上げますと、やはりメルクマールとしてユニクロは毎シーズン、何かしら購入しています。着てみないことにはユニクロについて何も語れない、考えられないと思いますから。それ以外は、ネストローブやエヴァムエヴァなど、良い生地を使い、日本の縫製工場で作っていて、適正価格と感じられるブランドが多いです。

日本製だから良い、と短絡的には考えていませんが、技術を持つ日本の縫製工場に一つでも生き残ってほしい、という気持ちを持っているからです。買う場所は可能な限り、リアル店舗です。

染原:私の個人的な志向を訊ねられるのも想定外ですが(笑)、そうですね、私もユニクロはよく買います。それ以外はほぼゾゾタウンです。もしかするとこの一年は、ユニクロ以外はゾゾタウンでしか買っていないかもしれません。リアル店舗で買う場合は、自分の行動の導線上にたまたま気に入ったショップがあった場合でしょうか。

中沢:気に入ったショップがあったら、リピーターになりますか。

染原:頭にインプットはします。ゾゾタウンで買うにしても、お気に入りのブランドが10くらいあって、その中から選んで買います。

中沢:生地の良し悪しや着心地を試してから買いたいとは思わないんですか。

染原:ゾゾタウンはすべての商品を自社で計測し、そのサイズを表示していますので、大失敗したことはないですよ。ちょっと期待した感じの生地と違ったなあ、というケースはありますが。

中沢:ということは、「接客」は要らない、ということですね?

染原:あったほうがいいと思っていますし、自分ですべて選ぶと可能性が縮まるとも思います。自分のクローゼットにモノトーンの服が並んでいるのを見て「店員さんに他のカラーをおすすめしてほしい」と感じることはあります。ただ、それが店に行くほどの動機になるかというとならない、ということですね。

中沢:リアル店舗の存在意義が問われるお話ですね。ただ、私のように意識的にリアル店舗で買おうとする消費者は今やマイノリティになりつつあると思います。

一方で、ファッション好きな若者の間で古着ブームが起きています。同質化している新しい商品ではなく、オンリーワンをリアルで探さなければ入手できない商品が求められています。必ずしも「接客」が必要かどうかは別ですが、面白い現象です。

ところで、メディアでも取り上げられるようなものづくりブランドの商品について、ストーリーで売っている/見せている商品が多いと私は考えています。断っておきたいのは、それが悪いという意味ではありません。染原さんはストーリーに惹かれて買うケースはありますか。

染原:ありますよ、もちろん! たとえば「ずっと使いたいモノ」をセレクトしているZUTTOといったECサイトで、紹介されるストーリーに共感して購入します。

中沢:服に限りませんが、物を買う背景にあるストーリーが非常に大切な時代になっていますよね。私と染原さんの消費者としての違いは、できるだけリアル店舗で、を意識するかしないか、という点でしょうか。適正価格で良い商品を求めたいという気持ちとストーリーに惹かれる点は共通です。

消費傾向というものは世代差もありますが、今人々はどこで服を買うか、を考える際に参考になるスタンスの違いが興味深いですね。

バズる「メイドインジャパン」

中沢:以前、あるファストブランドの路面店でメイドインジャパンフェアが行われていました。久留米のムーンスターや今治タオルなど、さまざまな他社のセレクト商品が「さすが日本製。素晴らしい品質」と紹介された先にあるのは、中国製の自社製品でした。こうしたメイドインジャパンの見せ方を見ると、流行としてメイドインジャパンが「消費」されているように感じます。つまり、メイドインジャパンがバズっているということです。

私は日本製、他国製に関わらず、良い商品とそうでもない商品があると思っていますが、やはりものづくりに長けた日本製に思い入れがありますし、実際に品質の高い商品が多いと感じています。

ですから、きちんとしたスタンスで国内工場にフォーカスを当て、志を持ち、日本製品を真面目に送り出している企業が考えるメイドインジャパンと異なる「バズるメイドインジャパン」に違和感を持っています。

染原:なるほど。マーケティングの問題ですが、97%がアジアを中心とした他国で生産された製品で、他国の縫製技術もあがってきたアパレルの現状を考えると、ものづくりに真摯にこだわる送り手と受け手以外の人たちが、はたしてどこまで日本製を求めているのか、というのは考える必要があるかもしれません。

中途半端に日本製にこだわって、中途半端に価格が上がるなら、もう安い他国製でいいよ、と考える消費者にどのように訴求するべきか、ですね。

中沢:誰がアパレルを“生かす”のか、というタイトルを今日のイベントに掲げましたが、私の考えるその答えを申し上げると、消費者だと思います。当たり前ですが、消費者に選ばれるアパレルが生き残るのです。

地方の名産ブームなどが起きていますから、日本製に対する期待を持つ消費者はそれなりに増えているはずです。ところが、これは服に限らないですが、メイドインジャパンを推す惹句も同質化しています。

どこかで聞いたストーリーを中途半端に聞かされても印象に残りません。そのあたり、気仙沼ニッティングや桃太郎ジーンズといった小規模な企業のストーリー作りは徹底しています。ですから、確かにマーケティングの問題で同質化させないメイドインジャパンの見せ方が必要でしょう。

メイドインジャパンブームは一例ですが、同質化する商品とストーリーの中で、いかに差別化するか。さらにその差別化をどう伝えるか。ここが問題ですよね。

染原:日本製に対する自負や期待は、かつてのソニーやパナソニックのような、メーカーズの誇りが今も息づいているからあるのでしょうね。必ずしも、メイドインジャパンが唯一の解決ではないのに、あまり効果的ではない見せ方をしてしまうケースがあります。

昔は、高いか安いか、良い商品か安物か、といった感じで選択の幅が狭かったと思いますが、今は商品も価値観も多様化しています。価値のある日本製が欲しいが今すぐ欲しいとか、商品が良ければ生産国はどこでもいいとか、ただ安ければいいとか。

中沢:本当にそうですね。ターゲットをしぼり、どうマーケティングするのか、難しい時代です。

後編につづく

(2018/4/11)