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2017年、ベストセラーとなったビジネス書『誰がアパレルを殺すのか』。アパレルの「危機」は業界の外でも話題になっているからこそ、ベストセラーとなった。そこで、本イベントの第一回目として、アパレルの現状と総論を整理、共有するために著者のお一人、染原睦美さんをお招きした。アパレル業界で今起きていること、ファッションの未来に希望はあるか、といったテーマで、モデレーターのライター、中沢明子氏と語り合った。

(後編)

アパレルにおけるイノベーション

中沢:アパレル業界に今起きているイノベーションの話に移りたいと思います。たとえば、『誰がアパレルを殺すのか』でもフォーカスされていたアメリカのエバーレーンは、注目すべきアパレル企業です。ご著書の中で「消費者はもう騙されない」という箇所で一例にあげていらっしゃいます。改めてお聞きしますが、エバーレーンのどこが革新的なんでしょうか。

染原:端的に言うと「オンライン世代の服屋」ということです。彼らは店を一つも持たずに会員を100万人まで伸ばしました。服は自社で作ります。そこだけ見るとユニクロと同じようにSPAの業態です。デザインは主にオフィスカジュアルなシンプルなもの。しかし、特筆すべきはオンラインのみで勝負し、支持された。

また、彼らは再販をしないので、基本的にセールをしません。1000枚と決めたら、それ以上作らず、売り切ります。そして、自分たちはセールをするほど皆からお金をもらっていない、原価率ギリギリの価格をつけている、と伝えています。中間業者をなくして、商品作りと顧客サポートにリソースを割き、商品価格の内訳を顧客に明示する方法です。

中沢:消費者にとって信頼できる情報開示ですよね。

染原:これまでの商習慣のアンチテーゼとして、そうした見せ方をしたことは革新的でした。いろんなポイントでこんな簡単にそれまでの商習慣を覆し、打ち破れるんだ!ということを証明したわけです。

そして、事務所の一角に実物を見られるスペースを作り、その後、ニューヨークできちんとしたお店を出店しました。できてから数か月後に訪れた際、まだ行列ができていました。アメリカで行列ができるアパレルショップは珍しい。それだけしっかりとした顧客がついているということでしょう。さらに、サンフランシスコにも出店しました。

中沢:ECに特化したことで支持されたブランドがリアル店舗を出店する是非については、どうお考えですか。

染原:やはり、人はリアルの世界に生きているので、バーチャルだけで完結した、リアルの世界においてゼロの存在になるのも得策ではない、ということでしょうか。中国のアリババやアメリカのアマゾンの最近の動きを見ても、そのように感じます。ECは消費者がポチっと購入ボタンを押すと、配送まで誰かがやってくれる。一方で、配送は少なくとも相手の都合で1日待たなくてはいけないといった相手との「同期」を強いられます。

でも、リアル店舗は消費者がそこまで足を運び、商品を手にとり、自分の都合で購入できます。非同期で、自分のハンドリングでできるのです。モノを買う際に、自分が何を優先的に考えるか。スピードなのか、利便性なのか、対面でのコミュニケーションなのか。そういったことをオンラインとオフラインで選択しながら購入体験を得られる世界になっていくのだと思います。

かといって、エバーレーンが全世界に何千店舗も出店するかといえば、それは絶対にない、というだけの話のような気がします。今までは、オフラインの店舗でしか消費者に購買体験をしてもらえなかったので、お店を出していたに過ぎないわけです。オンラインでの購入が可能になった今、明らかにお店の数は一昔前ほど必要ではなくなってくるというのは事実としてあると思います。

中沢:話の焦点を変えますが、エバーレーンの商品のデザインはとてもシンプルですよね。まだ全貌が明らかにならない、日本のアパレル関係者が大注目しているゾゾスーツもTシャツやジーンズからスタートするようですが、とてもスタンダードなデザインです。

そうしたシンプルな、あるいはタイムレスなデザインを志向する企業が新しいチャレンジに向いているのか、そうではなく、アパレルのドラスティックなイノベーションはシンプルなデザインでないと不可能なのか。ここ数年、疑問に思い続けています。

ファスト企業がもたらすモードの民主化

染原:難しい問いですね。私はどちらかというとインターネット文脈で考える立場なので、そこに引き付けて言うと、インターネットはマスをとらなければ死を意味しますから、カッティングエッジな服を作っても、実際のところ、しょうがないというのはあると思います。マスを取りに行こうとすると、少なくとも、最初はマスがとれる商品を打ち出すのが自然な流れではないでしょうか。

中沢:なるほど。まずマスをつかみとるためにシンプルなデザインを打ち出して、成功した後に変化しようとしているブランドとして思い浮かぶのは、やはりユニクロです。ユニクロはシンプルな商品を提供する、まさにLifeWearなブランドとされてきました。ところが、ここ数年のユニクロやGUは、それこそカッティングエッジな服もたくさん売っています。

2009年にジル・サンダーをディレクターに迎えた「+J」シリーズから始まり、今では、クリストフ・ルメールのUNIQLO U、ボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクターのトーマス・マイヤー、元ルイ・ヴィトン、現ディオール オムのキム・ジョーンズ、ロエベのJWアンダーソンなど、モード界の大物を起用していますよね。

各デザイナーのオリジナルとは比較になりませんが、それでもかなり攻めたデザインをユニクロ価格で出しています。私はそれを「モードの民主化」と考えています。

ファッショナブルと思われていなかったユニクロですが、もはやそうではありません。今後モードをマスに落とし込めるようになったら、さらにユニクロは無敵です。ファーストリテイリングのような巨大企業がブランド力を強化するために、むしろカッティングエッジな方向を目指しているのが興味深いと私は思っています。他の大手アパレル企業にとっては、ファーストリテイリングの動きは死活問題になりませんか。

例えば、今年3月に「ドーバーストリートマーケット×GU×キム・ジョーンズ」という奇跡のトリプルコラボが実現した。カオスのような状況です。

こうした動きは他のアパレルの大企業は危機感を持って受け止めるべきじゃないかと思います。デザインやメイドインジャパンといった差別化で闘うにしても、どう闘っていけばいいのか。

染原:ユニクロはさすがに国内では頭打ちの状況なので、グローバルに出ていくしかありません。伸びしろは世界での成長です。そのために、有名デザイナーとのコラボレーションなどでブランド力を高めるマーケティングツールとしてユニクロはとらえているのかな、と思います。

国内でいうと、フリースブームを覚えている層以上の感覚かもしれませんが、ユニクロを堂々と着られない消費者にはマーケティング効果があるでしょうね。

シェアリングエコノミーがもたらす影響

中沢:リユース市場で存在感を示すメルカリ、レンタルマーケットでチャレンジしているメチャカリやエアークローゼット。どちらもシェアリングエコノミーの文脈で成長しているアパレルビジネスですが、アパレルビジネスの希望はこうした方向にあると思いますか。つまり、新しいものを買わない消費者に向けたビジネス、という領域です。

染原:意見が分かれるところかもしれませんが、消費者がそう望んでいるなら、そこにある種の希望があるといえるのかもしれません。少なくとも、新しいものを買い続けろ、と言うのは売り手側の都合ですよね。

中沢:そうした領域が拡大していくとなると、新しいものを作り、売ろうとする企業の市場からの退場はますます増えていくことになりそうですね。「中古で十分」という市場を見据えて、それでも買われる新しい商品を売ろうとすると、よほどの志を持たない限り、リユース価格が高くなる最大公約数的な手堅い商品を作らざるを得ない。

リユース市場では変わったデザインやカラーよりも、落ち着いたデザインやカラーが人気です。私はバッグが好きでたくさん持っているので、リサイクルに持っていくこともよくあるのですが、同じデザインでも茶色は高くてピンクは安くなる、といった査定になります。つまり、何が言いたいかというと、リユース市場が拡大すればするほど、思い切ったデザインにチャレンジするデザイナーや企業が育ちにくくなる土壌になりやしないか、という問題意識を持っています。

そうした市場が強くなっても消費者に求められるのは、マスに求められる良いものと、希少性の高いオリジナリティのある商品であって、中途半端な商品や企業はここでも勝てなくなるのではないでしょうか。

染原:なるほど、おっしゃっていることは理解できます。ただ、当然、メルカリやメチャカリを利用する消費者ばかりではありませんし、私もレンタルを利用してみたことがありますが、結局、一部は買いたくなるものなんです。

これは最近の私のテーマでもあるのですが、なぜ借りるだけでは物足りず、買いたくなるのか。理由の一つは、利用頻度が高ければ、借りるより持っていた方が効率的だということ、そしてやはり、気に入ったものは持っていたいという欲望がどこかにあります。

今までは所有するという選択肢しかなかったのに、所有しなくても使えるという選択肢もできた。そうなれば当然、所有するという選択肢が占める割合が人によっては小さくなります。でも、オリジナリティなど求めていなかった層はいつでもいて、求めている層もいつでもいると思うんです。アパレルに限らず、成熟した国で必ず通過する道で、その中で、どのターゲットをとらえてビジネスを展開するか、という話ではないでしょうか。

消費者を啓蒙するといったことではなく、さまざまな消費者の志向に合わせて企業が何を提供するか。その点を真剣に考えることが必要だろうと思います。そして、そのチャレンジの答えは消費者が決めることだと思います。

中沢:もっと語り合いたいところですが、お時間が来てしまいました。染原さん、本日はお忙しいなか、本当にどうもありがとうございました。

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