使う人によって、新しい価値が発掘できたらいい

角田:今回のトークセッションは、ファッションの「越境」をテーマにしています。概念を超える、組織を超える、そして、国境を超える。これら三つのキーワードに沿いながらお三方にお話しいただきます。まず、最初に早川さんから簡単なプレゼンテーションをお願いします。

フリーランス 編集・ライター 角田 貴広 氏
1991年、大阪生まれ。東京大学医学部健康総合科学科卒業、同大学院医学部医学系研究科中退。ファッション業界紙「WWDジャパン」でのウェブメディア運営やプランニング、編集・記者を経て、現在はフリーランスに。「WWDジャパン」の編集・取材をメーンに、sitateru「Weare」やソーシャルホテル事業など、メディア以外の編集に関わる。取材対象はファッションビジネス、EC、テック、ホテル、ミレニアルなど。

早川:「ONFAdd」は、立ち上がって1年ほどのブランドです。Of No Fixed Address=住所不定という意味で、Unleash=習慣から解放、という新しい提案を行なっています。これはプロダクトのコンセプトだけでなく組織体制にも言えることで、トップにデザイナーやディレクターがいるピラミッド構造ではなく、さまざまなデザイナーがそれぞれプロダクトの開発を牽引しています。プロダクトだけでなくプロジェクトや研究も対象としていて、それらを総称して「ONFAdd」と呼んでいます。

ONFAdd クリエイティブディレクター 早川 和彦 氏
1984年岐阜県高山市生まれ。2007年アートセンターカレッジオブデザイン(LA)に交換留学。2008年多摩美術大学プロダクトデザイン学科を卒業後、セイコーウオッチ株式会社に勤務する。2014年早川和彦デザイン事務所を設立。多摩美術大学Pacific Rim Project非常勤講師。住所不定をコンセプトとしたプロダクトブランドONFAddのクリエイティブディレクターを担当。https://onfadd.com/

角田:最初に完成したプロダクトを教えてください。

早川:代表の高木の発言がきっかけになっているのですが、ラップトップコンピューターだけを持ち運ぶことに特化したバッグを作りました。ラップトップ一台だけで完結する現代のライフスタイルに沿うものを想定しています。ジャケットの内側にも身につけられる薄くて軽いバッグですね。その他にも、建築家が作った「最小単位の家」をコンセプトにしたバッグや、最近は靴の上から履くレインソックスが話題を集めています。

角田:目的に特化したプロダクトという意味では、WEAR SPACEも近いところがあるのではないでしょうか。続けて姜花瑛さんにお話を伺わせてください。

Panasonic FUTURE LIFE FACTORY デザイナー 姜 花瑛 氏
京都府出身。2008年4月入社。LUMIX、ワイヤレススピーカー、CDプレーヤー、ヘッドホンなど、主として音響関連機器を担当。現在は商品デザインを離れ、内田とともに「FUTURE LIFE FACTORY」メンバーとして、未来の生活をデザインで描く新たなミッションに挑戦中。https://panasonic.co.jp/design/flf/

姜:パナソニック社内組織「FUTURE LIFE FACTORY」に所属している姜花瑛です。発足して一年と少し、7名でプロダクト開発をしています。未来の豊かさを再定義するということを掲げて活動していて、パナソニックという大企業が掬いきれない、小さな課題解決や小さな豊かさを探っています。

 WEAR SPACEは「集中できる空間を提供する」ということをコアな目的にした新しいウェアラブルデバイス。コワーキング、シェアオフィス、フリーデスクといった業務環境が増えていて、集中するということのハードルが上がっていますが、WEAR SPACEは、ノイズキャンセリングのヘッドホンに視野を遮るパーティションがついたプロダクトで、集中できる環境を一瞬で作ります。 

 ヘッドホンの技術を、音楽を聴くことから集中することに価値転換しているところがポイントで、周囲に対する「集中しているよ」という意思表示にもなるし、ソフトウェアエンジニアやプログラマーといった作業を途中で中断されると困る職種の方から反響がありました。

角田:今までにないニーズを掘り起こしたんですね。

イベント会場には WEAR SPACE 体験ブースも。

姜:そうですね。その他にも、味覚に集中するデバイスとして、日本酒の会社とコラボレーションして活用法を探っています。ADHDだったり、感覚過敏に悩んでいる方からも注目してもらっていますし、ウェルビーイング、禅のような意味合いもあります。ファッションの文脈ではアンリアレイジとコラボレーションしています。クラウドファンディングで1000万円以上の支援を集めていて、様々な捉え方で期待していただいていることを感じます。使う人によって、新しい価値が発掘できたらいいですね。

角田:まさしく越境しているプロダクトと言えるのではないでしょうか。最後に、デザイナーの津村耕佑さん。ブランド「FINALHOME」を立ち上げ、現在は武蔵野美術大学の客員教授も勤めていますが、経緯を教えてください。

津村:かつて僕はイッセイミヤケでパリコレクションのデザインをしていました。80年代後半、どうもファッションが面白くないなと思っているときに、パンクミュージックやブレードランナーやスターウォーズといった近未来のディストピア映画が出てきて、ファッションにおいては「ストリート」が注目を集めていた時代です。

 そんな中で、自分がやっているデザインはリアルなのか?と自問自答していたのですが、ジョージルーカス展でスターウォーズのメカニックや衣服などを見て、とても感動しました。現実ではないけれど、どこかの惑星で何かが起こっていて、そこで実際に使用されているものが持ち寄られていると感じたんです。これは、服に物語性が加わったからこそだと思いました。歴史や物語のあるクリエーションに人は感動するんだな、と。

アートディレクター/ファッションデザイナー 津村 耕佑 氏
ファッションデザイナー、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。究極の家は服であるという考えを具現化した都市型サバイバルウエアー ”FINAL HOME” を考案。パリコレクション、ロンドンコレクション、東京コレクションなどのファッションシーンを通過しながら、デザインやアート、建築の分野を越境した活動を展開。第52回装苑賞、第12回毎日ファッション大賞新人賞、第3回織部賞を受賞。http://www.kosuketsumura.com/

角田:そうした問いが、ブランドのコンセプトに繋がるんですね。

津村:アルマゲドン後の人類は何を着るのか?をコンセプトにしたのが「FINALHOME」です。自然に還らない物質が残ると考えて、あえてプラスチックを使用しました。エコの逆ですね。当初は名前もなかったのですが、家は安心の象徴でありプラットフォーム。ディストピア以後の究極の家とは何か?という問いとして、「FINALHOME」というコンセプトができました。いまだにそのコンセプトの意味を考え続けています。コンセプトは進化し続けるんですね。

角田:特に印象に残っているプロダクトについて教えてください。

津村:アウターのポケットの中にペットボトルを詰め込んで浮くか試してみて、実際に浮いたので水上で着られる服かもしれないと考えたり、そう行った考え方をプロダクトに応用して、服を作ってきましたね。

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ファッションは別分野と組んだ方がいい

角田:一つ目の「概念を超える」というテーマに移ります。「ONFAdd」と津村さんとのコラボレーション・コレクションがローンチされていますが、どのように着想されたのでしょうか。

早川:きっかけは、代表の高木が学生時代に津村さんにインタビューをしたことですね。「ONFAdd」のプロダクトはカテゴリーを横断、越境し続けるものだからこそ、それを実践されている津村さんと一緒にやりたいと考えました。コンセプチュアルで実験的なものが生まれるんじゃないかなと。

津村:日常を越境する、シームレスにするところに共感しました。日本のモノづくりは、引き算していくものが得意だと思っています。どこにモチベーションを持とうかと考えて、素材に着目しました。布帛っぽいジャージ素材で、スポーティだけどバリッとした質感なんです。この素材を起点に考えました。

早川:機能的なセットアップを作りたいと思って開発した素材ですね。

津村:ポリエステルなので熱可塑性があり、それを生かして、エレガンスとスポーツを越境するようなプロダクトにしようと。機能的な特性をあえて全て隠しています。収納が裏に潜んでいて、内側に見えないファスナーを入れてわからないように。

 そこに大量の荷物が入ることで、シルエットが大きく変化します。崩れる、と言ってしまってもいいかもしれません。デザイナーが意図する美意識にとらわれたシルエットを壊し、予期せぬ形に出会える面白さがあると思っています。

角田:なるほど。制作の際に苦労したことを教えてください。

津村:技術的な面ですね。生地の厚みの問題や、縫う順番、行程の中で工場がリレーする中で起こる問題をひとつひとつクリアしていきました。

角田:早川さんはいかがでしょう?

早川:津村さんには生地を面白がってもらえたのですが、生地が生まれた経緯や技術的な特性なんかもよくわかっていなかったんです。「ONFadd」のチームにはアパレルを経験した人が全然いない。なので、布帛かジャージかよくわかっていない状態で、カバンに突っ込んでもシワにならない生地ってなんだろうと、用途から逆算して専門家に相談しながらこの生地をつくりました。テクニカルな領域で新しい視点をたくさんもらうことができましたね。

角田:アパレル経験者がいない、というのは驚きですね。

津村:いないのが良かったんですよ。アパレルが長い人だと、ルール通りになってしまう。超えられなくなってしまう。ファッションは別分野と積極的に組んだ方がいいと思います。

角田:これは組織の越境という話に繋がりますね。姜さんは、パナソニックという家電の大手企業にいながら、衣服に近い意味合いを持つプロダクトを手がけています。どのような経緯があったのでしょうか。

姜:今回、身につけるプロダクトを開発するに当たって、家電製品から抜け出して、衣料品としてデザインするところにこだわりましたが、津村さんから、家電に使う素材を転用してみたらどうか?とアドバイスをいただいて、なるほど!と。パナソニックだからこその強みは、生活に根付いていること。それをファッションの側に転用することで、新しい価値が生まれるのだと思います。

津村:もともと服の素材って、麻とか、綿とか、身近にあったものを使ってみたということなんですよ。ジーンズだってそもそも帆布を丈夫だからという理由で使用しただけ。衣服のために開発されたわけではなく、テキスタイルに後から体が慣れているんですね。現代には現代のマテリアルがあって、ポリエステルにも慣れてきたし、プラスチックも着るかもしれない。

 時代の変化でインターフェイスとして触れるものが変われば人間の感覚も変わる。そこの関係を作るのがファッションだと思います。どこまで違和感をまとえるか?ということに興味がありますね。昔は鎧を着ていたわけで、金属を用いた服だって作ることができるかもしれません。

角田:ありがとうございます。次のテーマである「国境を超える」に移りたいと思います。「ONFadd」は徹底してグローバルを見ているとのことですが、これはどういった意図があるのでしょうか。

早川:私たちはプロダクトとしてこれまでにないものを作ろうとしています。ちょっと先の未来の提案なのですが、この価値観に共鳴してくれる人が世界中にどこまでいるんだろう?と考えたときに、国内に絞ると数千人単位かもしれないけれど、全世界ならかなりの人数になりますよね。場所を持たず、エリアを絞らず、商品によってグローバルに繋がっていくブランドのあり方を模索しています。

角田:マスではないからこそグローバルに伝える。ウェアスペースもニッチなニーズに応えているプロダクトですね。

姜:海外からもこれが欲しいっていうメールが来るようになっていて、「グローバルニッチ」というキーワードを掲げています。国内だと1000人でも、世界だったら10000人に向けることができる。規模の経済を私たちも体感していますね。

早川:ニッチという意味では「ONFadd」は商品をカテゴライズするときに生産数で分けてカテゴライズしています。トップスやボトムスといったカテゴリーではなく、101001000、作られる数で分けています。プロダクトごとに価格帯も目的も異なり、量産できる低価格のものから、アートピースのようなものまで多種多様。

 自分たちの価値観を提示するために作る数を明記することで、それぞれのプロダクトの目的を明確に分けて伝えています。様々な人が関わってプロダクトを作っていて、アパレルの生産のタイミングに乗っているわけでもない。そういった体制から生まれてきた考え方ですね。

角田:なるほど。組織の常識を超えた取り組みですね。

姜:組織を超えるということは、私たちが掲げるビジョンでもあります。もともと発足のきっかけの一つが、冷蔵庫の未来を本気で考えるとき、冷蔵庫という形にとらわれないところにこそ未来があるんじゃないか?という会話をしていて。事業のカテゴリーを越境しながら、デザインすることに挑戦しています。

 名刺には新領域開発課と書かれているのですが、越境デザインチームって名前にしてもいいかなって(笑)。中央集権的な意思決定ではないということが大きいと思います。作りたいと思ったらとりあえず作る。

角田:お三方とも、実験的なモノづくりをしていますが、それを事業としてビジネスにしていくことは難しいのではないでしょうか。津村さんはそういった点を意識されるんですか?

津村:意識しますよ。しなそうですか?(笑)。むしろそこに向かってデザインしています。素材ひとつでコストが変わることを経験してきていたり、理想通りにシステムが動かないことも多々ありますね。組織ってそう簡単には変わりません。違う分野の概念を持って来ればうまく行くことも、なかなか決断できなかったりします。

角田:それは洋服に、それ以外の分野の作り方を取り入れるといったことでしょうか?

津村:もちろんそれもあります。もっと広い意味合いでは、人々の嗜好性とか、既成概念を壊すのが一番難しい。消費者側の美意識を覆すのはかなり大変ですね。アーティスティックな行為に頼らざるを得ない理由はそこにあって、それをどうビジネス的にどう超えて行くかがさらに難関です。

姜:私たちのプロジェクトは、今まさにチャレンジしている段階なので、これでいくら儲けるか、という部分までは踏み込んでいません。パナソニックからこういう取り組みが出てくることに大きな意味があるので、事業化はその先のタイミングですね。「ONFadd」は、ものすごいスピードで突破していますが、製品はどれくらいの数を出してるんですか?

早川:だいたい30点くらいですね。発表前から開発期間もありましたが、大量のプロトタイプを作ってきました。中央集権的な意思決定ではないということが大きいと思います。作りたいと思ったらとりあえず作るってことをやっている。商品化されていないものも多々ありますね。アイデアだけだと、もう数えきれないくらい。

角田:最後にファッションの領域でこれから作りたいもの、やりたいことを教えてください。

早川:プロダクトを作るのはもちろんですが、中心がない組織を作りたいです。フリーランスとか、別の会社に属してるメンバーも含めて、それぞれと協業しながら衣服のデザインに専門領域外の人が入ってくる場を作りたいです。生産力を高め、様々な人やアイデアを受け入れられる組織作りが当面の目標です。

津村:大学でファッションを教えているのですが、服作りとファッションはイコールで結ばれています。けれど、本当はそうではないはずなんですよ。ものが溢れる時代になって、価値観が多様化しています。考え方、ものの見方、価値の与え方こそがファッションであって、服そのものだけでは不十分。

 見慣れたものだけど、改めていいでしょ、というような物の見方の角度が提示できるのがファッションの魅力。そういう機会を作ることに興味があります。そして、そういった視点から逆算してプロダクトを作るということにも向き合いたいですね。

姜:着飾るためではなく、いろんな環境とか情報から自分を守るプロダクト、ファッションに興味があります。プライバシーやセキュリティを、エレクトロニクス、テクノロジーを生かして解決するプロダクトは作れないか、と考えています。

角田:ありがとうございました。

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