場所の特殊性を生かしてアートホテルに

沖縄本島と離島をつなぐ那覇最大の港「泊港(とまりこう)」。出入りする船を見送るような位置にせり出した特殊な場所で、3年前、ホテルを立てる計画が舞い込んだ。

国際通りなどの観光地からは少し離れ、住宅やアパートが立ち並ぶこのエリアは、はっきり言ってホテルに向いているわけではなかった。それでも、この場所の特殊性を生かしてホテルをやるとすれば、「振り切ってアートホテルにするのがいいのではと思ったんです」

そう語るのは、当時ホテル開業プロジェクトチームの運営マネージャーで、現在ホテルの支配人である、沖縄UDS株式会社の山森薫さん。

UDSでは、まちづくりをコンセプトに、地域ごとに新しいホテルブランドを作っていくのがセオリーだったが、京都で人気を博していた「ホテル アンテルーム 京都」のブランドを展開するという方向に。

アンテルーム京都のある九条エリアも、同じく観光エリアからは離れていたが、アートの力によってホテルが求心力となって人のにぎわいを生み出し、次第に周りに店やホテルなどもでき、10年の時を経てエリア全体がリブランディングされていった。その成功例を、沖縄でも展開したいと考えたのだ。

ミュージアムとホテルが融合する気持ちの良い空間

そうして、名和晃平氏が率いるアートスタジオの「SANDWICH」がディレクションを行い、アートと沖縄の海が融合する、スペシャリティ溢れるホテルができあがった。部屋は、全室ハーバービューで、沖縄の県内外からキュレーションされたアーティストたちの作品が並んだアーティストルームも存在する。

驚くのは、入り口だ。少し分かりづらいエントランスから入り、ほの暗い部屋を抜けて扉をくぐると、吹き抜けのエントランスホール壁一面に大きく描かれた、圧巻のドローイングインスタレーションがお迎えしてくれる。階段をあがると、真っ青な海を背景にアート作品が並ぶギャラリーがつづく。

ホテルにギャラリーが付帯しているでもなく、泊まれる美術館でもなく、まさにミュージアムとホテルがゆるやかに溶け合った、不思議な気持ちよさだ。

空間と海に馴染むミュージアムコート

そんな特殊なホテルの体験に欠かせなかったのが、スタッフの服装。

「ホテルのユニフォームって、あまり考えずに最後に焦って決めてしまうことも多いですが、このホテルでは絶対に大事にしたいと思っていました。僕の中で、制服はオンオフを切り替えるスイッチなんです。着たらオンになるような服と思った時に、Tシャツや沖縄では多い“かりゆしシャツ”ではなかった。かといって、ベストにシャツのような正装も堅すぎると悩んでいました」(山森さん)

そうして行き着いたのが、シンプルなシルエットのミュージアムコートだった。美術館の学芸員や、ラボのようなイメージが、実験的なアートホテルの雰囲気にぴったりだ。ブルーグレーの色味は、海を映す建物の色とよく馴染む。

「ゲストの方から、これ制服ですか?かっこいいですねと言われますよ。スタッフもとっても気に入ってくれています。私はこれまでもホテル運営のキャリアが長いですが、スタッフが制服をそこまで気に入っているってあんまり聞いたことがないですよ(笑)」(山森さん)

「沖縄に来たらアート」を定番に

2020年2月末に開業し、直後にコロナ禍に見舞われてしまったが、緊急事態宣言で営業自粛をしていた間に、スタッフ全員で長期的なプランを考えた。短期的なことを考えても仕方がないと割り切り、1年後、数年後のブランディングイメージからブレイクダウンしていった。

その計画のひとつは、レストラン。地元の方に愛されるホテルレストランは、観光客も行ってみたくなるはずだと、住民にレストランをPRしていった。

「今やランチは連日予約をたくさん頂いています。建築やアートもあまり沖縄にはない新鮮さがありますし、もちろん料理も自信を持ってご提供しています」(山森さん)

もうひとつは、沖縄にいる若手アーティストやクリエイター、生産者とのコラボレーションだ。

「少しずつ、沖縄県内でおもしろいことをしている人たちとのつながりを広げています。実際に、県立芸大の若手アーティストに、オリジナルスーベニアのパッケージを描いてもらったり、三線を弾いてもらったり、取り組みも進めています。ここから沖縄のアートを世界に発信したいですし、世界のアートもここで見れるようにしたい。“沖縄に来たらアート”というのを定番にしていきたいと思っています」(山森さん)