研究者のように事実を突き詰め、コレクションの洋服に落とし込む

「大人げない大人の服」をコンセプトに掲げ、多くのファンを魅了しているFRAPBOIS。ササキ氏は、FRAPBOISの服をデザインするにあたって、あるルールを自分に課しているのだという。

「『大人げない大人の服』というコンセプトは、大人になっても、遊び心やユーモアを持って人生を楽しんでいたい。そんな気持ちを投影しています。ですから拳銃やドクロといった、アンハッピーなモチーフはデザインに使わないことにしていて。動物や水玉のように、人にプラスのエネルギーをもたらし、ハッピーにするようなモチーフを積極的に使っています」(FRAPBOIS デザイナー ササキハルキ氏)

ファッションデザインには、正解がない。だからこそ、デザイナーのスタイルは多種多様だ。映画や芸術作品からインスピレーションを得る人や、先端のテクノロジーを落とし込む人など、様々なスタイルを持つデザイナーがいるが、ササキ氏は自身のスタイルを「研究者タイプ」だと分析する。「大人げない大人の服」というコンセプトにフィットする、あらゆるテーマを追求し、コレクションに落とし込んでいるというのだ。故に、シーズン毎に“研究発表”をしているようだと、ササキ氏は言う。

「デザイン画よりも先に、まずは文章を書いています。研究を通して得た、裏付けされた知識を整理するためですね。それこそ論文のようになる場合もあったりして(笑)。ビジュアルに落とすのは最終段階なので、デザイン画を書くのはすごく早いんですよ。ただ、そこまでに行き着くのがとても長い。数年かけて1つのテーマを調べることもあります」(ササキ氏)

2015-16秋冬コレクションのテーマに「CIRCUS」を掲げた際は、日本を代表する木下サーカスのもとに自ら出向き、コラボレーションも実現した。

さらに2019春夏コレクションのテーマである「神楽」に関しては、5年もの年月をかけて研究を重ねたという。ササキ氏自ら日本各地の神社や寺院に出向き、弥生時代から紡がれている伝統文化について、徹底的に調べ上げたそうだ。そうした研究を通して得た嘘のない知識を基に創造されたFRAPBOISのコレクションは、毎シーズン顧客に驚きと発見をもたらしている。

「僕のiPadには、本棚のようにあらゆるテーマをストックしている場所があって、そこに興味のあるテーマを溜めているんです。そこから、『今、これを出そう』と決めるのは第六感が働いた時。そうすると面白い偶然が起きることもあって…。以前、キリンジの楽曲『エイリアンズ』をテーマに掲げた時には、コレクション発表のタイミングに兄弟でのキリンジが一時復活して、驚きました。元号が変わる年に、『神楽』をテーマにしたコレクションを発表していることも、不思議な偶然です。そうしたタイミングや偶然が、コレクションの良いスパイスとしてつながっていると思います」(ササキ氏)

必要としてくれている人の数だけ生産する、無駄のない服づくり

コレクション性の高いFRAPBOISとは別に、ササキ氏が「プライベート感覚でデザインしている」と話すのが、2012年に立ち上がったブランド『ikurah(イクラ)』だ。ブランド名はササキ氏の名前である“haruki”を逆読みしたものである。

同ブランドのコンセプトは、「カルペ ディエム 今を刻む服」。これは、1989年のアメリカ映画『いまを生きる』の主人公が発する「カルペ ディエム(その日を摘め)」という言葉に由来しているものだ。2014年から一時休止していたikurahだが、2018年秋にsitateruの生産一体型受注システム「SPEC(スペック)」を活用してコレクションが実現した。生産から販売までフルサポートを行うSPECの活用は、まさに“今の時代”にフィットしたものだった。

「ikurahでは今の自分にマッチするものや、時代に合った服を作っていて、限定したものづくりを体現しています。SPECを使えば、無駄のない商品づくりが実現できる。“サスティナブル”や“エシカル”が課題となっている今の時代に合っていると感じて、SPECの活用を決めました」

SPECを活用した新作コレクションは、2018年10月と12月にFRAPBOIS 中目黒フラッグシップショップでサンプルを展示しiPadのSPEC画面から受注を受け付ける、ショールーミングも並行して行われた。必要としてくれている人の数だけ生産することにより、余剰在庫を抱えるリスクや生産管理のコスト削減が実現した。一方で、今後の課題も残ったとササキ氏は振り返る。

「今回は中目黒のショップだけで行なった取り組みだったので、サンプルを実際に手に取って見たり試着できたりするお客様も限られていました。しかし、全国にある店舗で同様のショールーミングをやるとなれば、サンプルを更に生産する必要がある。僕が理想とするのは、売る側、買う側、そして生産側とそれぞれがハッピーになるような形です。今後もsitateruさんと協力しながらそこに向かって成長していきたいなと思っています」(ササキ氏)

デザイナーとして、“常に作り続ける”ために必要なこと

26歳からデザイナーとしてのキャリアを重ねたササキ氏は、現在44歳。長年のデザイナー人生の中で、服づくりの目的は徐々に変化していったという。

「30代は、FRAPBOISの服に袖を通してくださるお客様に向けての服づくりをしていました。40代になり、自分の内面にあるものを表現する服づくりがプラスされました。自分の内面にあるものを出しているので、デザイン自体に重みが出てきていると感じます」(ササキ氏)

前述したFRAPBOISの2019 春夏コレクションのテーマ『神楽』は、実はササキ氏の内面から湧いてきたものでもある。同氏は幼少の頃、神楽の踊り手だった祖父から踊りや笛を習っていたのだそう。自分のルーツを辿ることで、クリエイションに深みが増しているのではないだろうか。

インタビューを行ったFRAPBOIS 中目黒フラッグシップショップで流れていた、ミニマルミュージックの第一人者・スティーヴ・ライヒ氏の楽曲も、ササキ氏のセレクトによるものだ。神楽で使う雅楽に近いループミュージックをBGMにしたいと考えたササキ氏は、自らライヒ側に直接楽曲の使用を打診したのだという。

さらにササキ氏が長年続けているのが、アーティストとのコラボレーションだ。FRAPBOISはこれまでに、スイス人芸術家 パウル・クレーや、台湾の若手アーティスト ライアン・スーとのコラボレーションアイテムを発表してきた。

「“絵を洋服に落とす”ことは、ずっと続けているんです。パウル・クレーもライアン・スーも、本当に好きなアーティストなので、彼らの作品をみなさんにもぜひ見てもらいたいという気持ちが強くあって…。そうした時に、僕が使えるツールは洋服なんですよね。彼らの絵を使って洋服を作って、お客様に喜んでいただけたら、まさに“三方良し”ですよね」(ササキ氏)

ファッションデザイナーに求められるのは、センスやスキルだけではない。“常に作り続ける”ことができなければ、第一線に立ち続けることは難しいだろう。デザイナーの仕事を、「“止まると死ぬ”と言われているマグロのようなもの」だと表現するササキ氏のイマジネーションの源泉は、「好きなことに、徹底的に向き合うこと」なのかもしれない。

「基本的に僕は、自分が好きなものしか追えないんです。車にも興味がないですし、好きなもの以外は興味がないというか、、、深掘りできない。FRAPBOISのデザイナーを続けているのも、FRAPBOISが好きだからなんですよね。好きじゃないと、常に作り続けることはできないですから」(ササキ氏)