その土地の歴史を五感で追想できるライブラリーサロン

日本橋・兜町に誕生したマイクロ複合施設「K5」。東京証券取引所の裏手、築100年近くの重厚な歴史的建築物が、大規模リノベーションにより生まれ変わった。2階から4階が「HOTEL K5」となっており、The Brooklyn Breweryによるビアバー「B」やコーヒーショップ「Switch Coffee」、レストラン「caveman」、そして、ライブラリーバー「青淵-Ao-」が入る。いま各業界で最も注目されるプレイヤーたちが集結した、と言っても過言ではない顔ぶれだ。

日本橋・兜町は、19世紀後半、日本に資本主義の考えをもたらした「渋沢栄一」が、日本初の銀行「第一銀行」(みずほ銀行の前身)など、多くの企業を創業したことから、日本の経済成長を牽引する街として栄えていた。

エリア再活性化プロジェクトの一つとして、元「第一銀行」の別館だった建築に新たな命を吹き込み、世界中から人々を惹きつけるハブのような場所にしたい、という構想で誕生したのが「K5」なのだ。

かつて第一銀行の社長・渋沢栄一の応接間だった区画は、おもてなしをする場所にしたいと、バーをつくることに。いま新しいスタイルでバーシーンで注目を浴びるふたり、バーコンサルティングブランド ABV+の野村空人、新宿ゴールデン街のレモンサワー専門店「OPEN BOOK」の田中開に声がかかった。

「この場所の歴史を聞いて、バーがついた書室というイメージにしたいと考えました。ドリンクや本から、渋沢栄一の夢を追想できるというコンセプトです。
 渋沢さんは『青淵文庫』という個人文庫もつくっていて、そこにも実際に行って雰囲気を確かめました。“青淵(せいえん)”というのは、渋沢さんの雅号(ペンネーム)だったそうなんですね。それを、アオと読ませて、『青淵-Ao-』という店名をつけました」(野村氏)

建物の心臓部分という意味もあり、壁や床はすべて赤。店全体を囲む本棚には、渋沢栄一やこの地の歴史書をはじめとして、アジアや日本、哲学などに関する本がずらりと並ぶ。

バーメニューは、「亜細亜のカクテル」を意識し、お茶や漢方を使ったものを中心にセレクト。漢方ブレンドティーも提供する。低めのソファーや大理石の机は、さながら重厚感のある応接間で、ゆったりと本とドリンクを嗜めるサロン空間になっている。

バーに立つ人の服装もひとつのエクスペリエンス

そんな中で、バーテンダーの服装も、一つの大きな要素として捉えた。

「僕はこれまで様々なバーに立ってきましたが、基本的にバースタイルの“ベスト”を着ていました。よりカジュアルにしたいと思ったら“エプロン”になってしまうのですが、それは自分らしくないと思うし、肝心な袖周りが汚れてしまい理にかなっていない。それに、海外で仕事するときに、日本人としてのアイデンティティをスタイルで表現したいなと常々思っていたんです」(野村氏)

そこで、新しい“バーテンダーのワークウエア”の選択肢として、作務衣のような前重ねの羽織を作りたいと考えた。自身のプロデュースするブランド「GOMI(五味)」のプロダクトとしての展開を見据えながら、第一弾として、Aoの“茶房”や“漢方”といったイメージにも合うため、抹茶色の生地で制作することに。sitateru CSTM のベースデザインを元にしながら、コラボレーションとして、作務衣コートを特別に仕立てた。

内ひもで着崩れを防ぎながら、表はシルバーの廟を重ねるという、スタイリッシュな仕様に。機能性やディテールにもこだわった。

「バーは、ドリンクを楽しむという非日常体験の場。そこでドリンクを出す人の容姿も、ひとつのエクスペリエンスです。何を着ているかで、その場の雰囲気や、その人のスタイルをつくると思っています」(野村氏)

実際に、お店で着ていると、「オリジナルですか?」「お店に合っていていいですね」と声をかけられることも多いそうだ。

店内を囲む本棚、クラシカルなソファ、鶯色の作務衣を着たバーテンダー。土地に刻まれた歴史を感じ、書斎の中でカクテルやお茶を飲むという、五感の「エクスペリエンス」を設計した。

新しいスタイルを文化として開いていく

カクテルやドリンクを提供するというバーの枠を超えて、場のエクスペリエンスデザインを考えることで、ドリンク体験がさらに特別なものになる。さらには、文化として店の外に開いていくことも考えている。Aoでは、このウエアを販売する予定だ。

「今後は、生地やディテールを変えながら、このスタイルを “エプロン”みたいなひとつの新しいウエアのカテゴリとして広げていきたいんです。もちろん他のバーや飲食店でも使ってもらいたいですし、よりよい日常を得るための普段着としてお客さんにも着てもらいたい。

 飲食店のスタッフが着ていて、それを見てお客さんが買うという、新しい共存関係を作ってみたいなと。また、この胸ポケットに合うペンをつくったりもしてみたいですね。そういうちょっとしたところに、スタイルが滲み出てくると思っています」(野村氏)

たとえば、そのお店のシグネチャーメニューと連動させ、コーヒーや野菜、お茶での草木染めをすれば、そこにストーリーが生まれ、顧客との会話のきっかけにもなるかもしれない。日本古来の藍染めをして海外のバーで着れば、バーカルチャーを日本らしく再解釈したスタイルとして目を引くだろう。

飲食店に限らず、家で料理をするとき、日曜大工をするとき、服を汚さないようにさっと羽織れる作業着になるかもしれない。

単なるユニフォームではなく、着る人のスタイル、顧客のエクスペリエンス、そしてカルチャーを創り出す。衣服の価値は、つくる人のクリエイティビティ次第で、無限大に広がっていく。