「書くきっかけ」を創出する文房具屋

職場や生活のあらゆる場面が効率化され、人々が「書く」ことに向き合う時間は減っている。そんな中でカキモリのコンセプトは「たのしく、書く人」。代表の広瀬琢磨さんは、書くことへの想いをこう語る。

「ITツールが発達した今、手書きで「書く」ことは日常の中で必須な行為ではなくなりました。あえて手書きで伝えるなど、特別な行為になりつつあります。だからこそ、楽しさや重要性を伝えていきたい。

普段は書くことから遠ざかっている人でも、たまに書くことで良さを発見したり、直筆の手紙をもらって嬉しかったりとか。手書きの楽しみを後押しする文房具屋でありたいです」(広瀬さん)

広瀬さん自身書くことと向き合うため、定期的にインターネットからの情報をシャットアウトし、自分の頭の中にあるものやアイデアを紙に書き出す時間を作っている。

「日々さまざまな情報に触れている中で、情報に流されてしまうこともあります。しかし紙に書き出す時間は『本来自分が指向している考えに戻れる時間』なんです。

その時間をとることで、文房具市場における競合のことばかり考えてしまうのではなく、『たのしく、書く人』というカキモリのコンセプトを大切にするという方針にブレがなくなっていく。書き出すことは、アイデアを考えたり、自分自身を見つめ直したりする場面に対して有効な方法だと思っています」(広瀬さん)

コミュニケーションを大切にした店舗設計

大きなターミナル駅や商業施設が建ち並ぶエリアではなく、蔵前という場所柄、オープン当初はなかなかお客さまが集まらなかったという。

しかし、コアなファンの口コミやメディアで取り上げられることが増えていった結果、一時は店舗の前に行列ができるほど注目を集めるようになった。そこで2017年11月に、同じ蔵前でより広い店舗へとリニューアル移転をおこなった。

「2010年のオープン当初から、カキモリではお客さまとのコミュニケーションを大切にしたいと考えてきました。そこでリニューアル後の店舗でも、全方位から対面で接客ができるよう、店舗の中心部にスタッフのワークエリアを用意。

お客さま自ら選んだ紙で作るリングノートを製作するスタッフとお客さまも会話ができるように、作業スペースの配置も意識しました」(広瀬さん)

お客さまとの距離を縮めるワークエプロン

リニューアルに際して、カキモリではオリジナルのワークエプロンを製作した。リニューアル以前は腰巻のエプロンを使用していたが、混雑した店舗の中ではスタッフのエプロンが見えづらくなる。結果、スタッフが見つけられず、お客さまが戸惑ってしまうという課題があった。

「お客さまがすぐにスタッフとわかるよう、上半身まであるワークエプロンを作ることは決めていました。ただ、エプロンを着用することでお客さまに緊張感を与えてしまい心理的な距離が離れてしまっては意味がありません。

お客様が話しかけやすいよう、店舗の雰囲気に自然に馴染むエプロンを作りたかったんです。その結果、色はグレー、素材は綿麻に落ち着きました」(広瀬さん)

接客は、ペンやメモ帳を実際に使いながら行うことが多いため、ワークエプロンの胸元にはペンポケットを配置。腰ポケットは大きめにデザインし、カキモリのロゴがあしらわれている。

「ワークエプロンを身につけていることで、お客さまがより話しかけやすい雰囲気になったのではと思います。紐をクロスに結んだり、バッジをつけたりすることで、スタッフそれぞれの個性も光るようになりました」(広瀬さん)

海外からも文房具ファンが集まる東京から

文房具ファンをはじめ、多くの人に愛されるカキモリ。サードウェーブのコーヒーやオーガニック食品など、クラフト志向の商品が注目を集めていることも、その背景にあるだろう。

「東京には文房具屋が多く集まっているんです。最近では海外から訪れるお客さまも多く、注目度の高さを感じます。実際私たちのもとへも海外から卸売の依頼もきており、今後は海外展開に注力をしていきたいと考えています。

ただ、海外へ展開するに当たっても“カキモリらしさ”は体現していきたい。コンセプトに共感してくれるパートナーを探して、タッグを組んでいきたいなと思っています」(広瀬さん)

海外展開にあたっても、カキモリの価値観・コンセプトを大切にしたいという広瀬さん。カキモリ独自の雰囲気づくりやコミュニケーションは、より重要なものになっていくだろう。