前田建設がベンチャーと共に挑むイノベーション

2019年2月、前田建設工業(以下、前田建設)は茨城県取手市にICI総合センター(以下、ICI)を設立した。研究・実験所としての機能も備えながら、ベンチャー企業等の新技術やアイデアを社会実装するためのすべてが揃う「総合イノベーションプラットフォーム」と位置づける。

「2020年以降、新規の建設市場が縮小していくことが見えている中で、前田建設は”総合インフラサービス企業”を目指しています。ちょうど今年が創立100周年という節目ということもあり、その象徴となるICI総合センターの設立が決まりました。ICIでは、様々なベンチャー企業と一緒に、新しい技術を社会につなげていきたいと思っています」(前田建設工業 ICI総合センター 先進技術開発センター長 上田康浩氏)

前田建設工業 ICI総合センター 先進技術開発センター長 上田康浩氏

前田建設はこれまでにも、建設現場向けの3Dプリンターなど新建材といった建設に関わるベンチャーとの協業はもちろん、様々な分野のベンチャーに投資をするなど、積極的なオープンイノベーションの動きを見せてきた。その投資先のひとつが、ウェアラブルIoT企業のミツフジだ。

スマートウエアではたらく人の身体や心の状態をデータ化

ミツフジは京都の西陣織の帯工場として創業し、導電性と洗濯耐久性に優れた銀繊維を活用したウェアラブルデバイスやアプリをトータルで開発するテクノロジー企業。その製品のひとつ、生体情報マネジメントを提供するスマートウェア「hamon®」を、前田建設の建設現場やICIで着用する実証実験がスタートしている。

「hamon®は、心電データから分析した身体の情報を見える化することで、大きく分けて”予防”と”予知”の2つの機能を果たします。建設現場などで体調管理に利用したり、トラック運転の安全対策に活用するのが”予防”です。また、大量のデータを取ることで、未来を”予知”することができるようになります。例えば、オフィスの意外な場所でのストレス値が高いことがわかると、オフィスレイアウトを考える際に役立ちます」(ミツフジ 代表取締役 社長 三寺 歩氏)

ミツフジ 代表取締役 社長 三寺 歩氏

「職人さんは、アスリートと同じように、なかなか自ら休もうとしないんですよね。これまでだと、顔色を見ながら現場指揮官が休憩を指示したりしていたのですが、hamon® で職人自ら体調を自己管理できるようになります。またICIでも社員全員の着用が始まったので、データ分析を進め健康・見守りによる健康経営・病気の予知に繋げたいと思っています」(前田建設工業 上田氏)

最新技術を駆使したワークウエア

ICIでは、ベンチャー企業の人なども出入りするということから、前田建設の社員だということがひと目で分かるワークウエアも着用する。センターのコンセプトを体現するものとして、様々な技術を搭載したウエアにしたいという希望から、シタテルがコーディネートし、島精機製作所の「ホールガーメント®」技術によるニットジャケットを制作した。
(ホールガーメント®に関しての詳しい解説はこちら)

「ホールガーメント®は、一着まるごとの状態で、編機から立体的に編みあがりますので、無駄がなく環境に優しい上、欲しいときに作り足しがしやすい。また、着る人にとっては、肩の部分も含めて縫い合わせがなく、体にフィットして着心地が良いというメリットがあります」(島精機製作所 営業統括部 東京支店長 兼 東日本支店長 小川 靖夫氏)

通常のジャケットは肩周りの縫い目によって突っ張ってしまって、今回のニットジャケットはそういったストレスがない。実際に着用している上田氏も「本当にストレスがないです」と頷く。

「シタテルとしては、島精機さんのような日本の高い技術力に、クリエイティブを足して具現化するという役割を果たしたいと考えています。今回も、新しい未来をつくっていきたいという前田建設さんの想いと、テクノロジー、そしてクリエイティブが、うまく重なって形になりました」(シタテル 代表取締役CEO 河野秀和)

ポケット下には、社員ひとりひとりのプロフィールサイトに遷移するQRコードを縫い付けた。このページを起点に、社員の人となりを知ってもらい、コミュニケーションにつなげる狙いだ。

また、これまで作業服やスーツを着ていた社員が多いため、社員が自分らしくこのジャケットを着こなせるようなスタイリングブックを、ISCA(一般社団法人 国際スタイリングカウンセラー協会)が作成した。アイテム別に数値化されたフォーマル度と、個人の嗜好や体型の分析によって、合わせるインナーやボトムスが簡単に選べるような仕組みになっている。

「衣服は心に一番近い”環境”だと思っています。特に男性は、着やすさがモチベーションにつながるります。とは言え、ニットセーターだとどうしてもカジュアルになってしまうので、今回のホールガーメント®によるジャケットは、ワークウエアとしてとてもいいですよね」(ISCA 代表理事 澤木祐子氏)

衣服×テクノロジーではたらく人はどう変わるか

後半は、全く異なるそれぞれの立場から見えてきた、衣服とテクノロジーをかけ合わせた、これからのワークウエアについて語られた。シタテルの河野は、様々な企業のワークウエアのプロジェクトを手がける中で見えてきた、これからのワークウエアの形を語った。

シタテル 代表取締役CEO 河野 秀和

「これからのユニフォームは、企業とはたらく人を繋ぐ、”コミュニケーションウエア”に変わっていくのではと思っています。デザイン・クリエイティブ性の高い共通した衣服を着ることにより、自然と生まれる一体感は、はたらく人の”心理的安全性”にも繋がります。先程、社員さん同士がジャケットを着て話している姿を見て、それを実感しました」(シタテル 河野)

島精機製作所とミツフジは、自社の独自技術を活かして、これまでにない新たなワークウエアを生み出していきたいと意気込みを話した。

「現状はホールガーメント®技術がワークウエアで使われるケースは多くないですが、最近だと水を通す管をニットに融合して冷却機能を持たせたり、それこそミツフジさんもそうですが、スマートウエアに応用していただいているケースもあります。3Dプリンターのように描いた形がそのまま服になるというポイントを活かして、用途を増やしていきたいと思っています」(島精機製作所 小川氏)

島精機製作所 営業統括部 東京支店長 兼 東日本支店長 小川 靖夫氏

「歴史上ずっと人間は服を着て生活してきたわけですが、身体と衣服の関係って、まだデータ化されていない世界ですよね。これまで当たり前とされてきた、”こういう仕事はこういう服で働くものだ”という固定概念を壊して、新しいワークウエアの形が生まれるところに、データが活用されるといいなと思っています」(ミツフジ 三寺氏)

この服を着ると集中できる、ストレスが少ないなどの、データに裏付けされた付加価値が加わることで、これからのワークウエアは進化していくかもしれない。

ISCA 代表理事 澤木祐子氏

「これまでスタイリストの仕事をしてきた中で、例えば女性はハイヒールを履くと顔に高揚感が出たり、役者さんは練習でも衣装を着ることでモチベーションを上げたりということを目にして、衣服と心が繋がっていることは経験として感じています。今までは科学的に実証されていませんでしたが、ミツフジさんの技術でそれが数値化されるとなるとわくわくしますね」(ISCA 澤木氏)

最後に、上田氏はこれからICIではたらく人たちへの想いと共に、今後の展望を語った。
「このワークウエアを着ることでモチベーションが上がって、たくさんアイデアを創出してもらいたいですね。また、hamon®で、着るものも含めてどんな環境だと過度なストレスを感じずに働けるのか、集中ができるのかというデータを分析して、はたらく人にとって最適な環境を作っていきたいと思っています」(前田建設工業 上田氏)

将来的には、このワークウエアやデータ分析がひとつのケーススタディとなって、オフィスや施設を建設する際の、付加価値をつくる提案のひとつになっていくのかもしれない。前田建設を中心にスタートした、衣服とテクノロジーによる先進的な取り組みに注目していきたい。