ホテルの運営会社である「ひよこカンパニー」の母体となっているのは、鳥取で上質な卵を生産する「大江ノ郷自然牧場」だ。大自然の中での「平飼い」を採用し、健康的な鶏から生まれる「天美卵」を全国で通信販売している。

その鶏が育つ鳥取の大自然を体験してもらおうと、はじめは天美卵を使ったスイーツショップをつくった。その後、レストランやカフェ、体験施設などもオープンし「大江ノ郷リゾート」ができあがっていった。名物のパンケーキカフェや、鳥取の食材を使ったレストラン、子ども向けのスイーツ作り体験など、山間の小さな村に、老若男女が一日中楽しめるエリアができた。

「リゾートというからには、いつかホテルも…というのはひとつの夢でした。そんな中、大江小学校のリノベーション活用の話があり。県外からのお客様も含めより長時間ステイで里山の暮らしを感じていただきたいと思って、ホテルを作ろうということになりました」(有限会社ひよこカンパニー 企画室 本内さん)

ひとつひとつにこだわるクリエイティブ

中心ターゲットは20~30代の女性。建物の構造自体はそのまま活かしながら、校舎を宿泊棟、給食室だった場所をレストランに、体育館をボルダリングなどのアクティビティスペースにした。ただ、内装や外装は、学校とは思わせないシンプルでラグジュアリーな雰囲気にリノベーション。

「コンセプトは、鳥取県のすべてとつながる場所。建築やインテリアなど、鳥取の企業や職人とコラボレーションしてつくりました。ホテルのレストランでは鳥取の食材や地酒を扱っています」(本内さん)

様々な調度品や家具、壁面など一部屋ずつ異なるデザインで仕上げられており、かなりこだわってつくられている。アメニティや、ユニフォームもできるだけオリジナルデザイン。館内着とコックコートは、sitateruで制作した。

館内着は、パジャマではなく館内の施設に着ていけるようにしたいという思いがあった。空間にも馴染む色味で、前ボタンを比翼仕立てに、ポケットもあえて左右対称にしないなどの工夫で、快適でおしゃれだから着たい、と思ってもらえるような素材とデザインを目指した。

「宿泊された方は、朝食にも着てくれていたり、着心地がいいという声をいただいています。来月からは、フロントの隣に開設予定のショップで販売しようと思っています」(本内さん)

併設するレストラン「IRORI」では、オープンキッチンの中央で炉端焼きを囲みながら食事ができる。魅せるキッチンだからこそ、コックコートにもこだわった。

和食レストランではあるが、ホテル全体のスタイリッシュなデザインにも合うよう、やわらかな黒のデニムで仕立てた。炉端は暑いため、袖をまくりやすくしたり、背中に通気用の比翼をつけるなど、機能性も工夫した。

地域の才能を生かしたコンテンツの編集

ホテルの宿泊者は県外からが多いそうだ。大江の郷リゾートには、平日も多くの人が訪れる。何もなかった小さな村に、行ってみたい、また行きたいと思わせるコンテンツを生み出し、にぎわいを作り出した。

地域のシンボルでもあった大江小学校が廃校となったこと自体は悲しいことだったが、このような形で新しい観光資源を作り出したことは、地域にとっても大きな貢献になっている。実際に地域の人がアクティビティ体験の講師をしたり、ホテル清掃の仕事を担っている。また、大江の郷リゾート全体を含め、多くのスタッフが働いており、地域の若者の就職先にもなっている。

「地域の子供達にアリーナを無料で開放する日をつくったり、イベントを開催するなど、地域の方とのつながりも大事にしています。地域と一緒に盛り上げていきたいと思っています」(本内さん)

少子高齢化の進む日本で、今後学校の廃校が進むことは抗えない時代の流れだ。しかし、思い切って新しいクリエイティブを入れ込み、地域の才能を生かしたデザイン、コンテンツを編集した「OOE VALLEY STAY」は、多くの地域の模範となるホテルになるだろう。