たった1人のショップから生まれた、サンドイッチポーチ

Instagramの検索窓に「サンドイッチポーチ」と入力すると、サンドイッチを立体的に再現した、ポップでキッチュなポーチの写真が多数並ぶ。

サンドイッチポーチとは、ハンドメイドマーケットminneで人気のショップ「pu・pu・pu」の看板商品。2016年の発売以降、SNSを中心に話題となり、ネット販売はもちろんのこと、全国の雑貨店やイベント会場でも販売されている。

毎月300個以上の受注がある「pu・pu・pu」を運営するのは、オーナーの長田裕子さんただ1人。ブランド立ち上げ当初は、全ての商品を長田さんが手作りしていたという。ハンドメイドのポーチがなぜ、大ヒット商品となったのか。その背景には、クリエイティブに真摯に向き合う長田さんの姿があった。

「好きなこと」を詰め込んだ、商品づくり

「40歳を目前にして、好きなことをやろうと思ったんです」

デザイン事務所勤務を経て、フリーランスのグラフィックデザイナー・イラストレーターとして活動していた長田さん。10年間続けた広告制作にやりがいを感じていたものの、指示通りにデザインすることに限界を感じ、「好きなこと」を仕事にしようと決意したのだという。

ミシンを踏む母親の姿を見て育った長田さんは、幼い頃から縫い物が好きだった。「人と被る」ことが嫌で、中学時代には自分で縫った洋服を着ていたという。イラストを描くことも好きで、長年イラストレーターとしての活動も続けてきた。

縫い物をすること、イラストを描くこと。息を吸うように続けてきた「好きなこと」を活かせる仕事はなにかーー。「好きなことを全力でやる」ことを模索した結果、長田さんが辿り着いたのは、オリジナルプリント生地を使った布雑貨制作だ。

そうして立ち上がったのが、布雑貨ブランド「pu・pu・pu」。ポップなブランド名には、長田さんのこだわりが込められている。

「商品を手にとった人に、ただ『可愛い』と言われるだけでは嫌だと思ったんです。思わず『ぷぷぷ』と笑ってしまうような商品づくりへにこだわっています」(長田さん)

「パン祭り」出店を機に、サンドイッチポーチを開発

「pu・pu・pu」で販売される商品の最大の特徴は、ポップなイラストがプリントされたオリジナル生地だ。ブランド立ち上げ当初、長田さんはこのオリジナルプリント生地の制作に頭を悩ませた。

専門業者に生地プリントを依頼した場合、一反(幅約37cm、長さ約12m50cm)からしか受けてもらえないことが多く、それなりのコストもかかる。「商品が売れるかもわからない状態で、大きなリスクを負うことはできない」と考えた長田さんは、Tシャツ用のプリンターを購入した。プリンターの価格は、約100万円。高額な値段に一瞬たじろいだものの「まずは作れないと、土俵に立てない」と思い、一か八かの賭けに出たのだという。

後戻りできない状況ではじめた制作活動。長田さんは自宅を作業場にし、毎日のようにイラストを描いてはプリントし、1日中ミシンを踏み続けていたという。

ブランド立ち上げ当初の主力商品は、巾着だった。サンドイッチポーチが誕生したのは、2016年秋に開催された「世田谷パン祭り」への出店が決まったときのことだった。

「minneさんからお誘いいただいて、『世田谷パン祭り』に出店することになったんです。パン好きが集うイベントなので、せっかくならばパンをモチーフにした商品が作りたいと思い、試行錯誤した結果に生まれたのが、サンドイッチポーチです」(長田さん)

思わず人に話したくなるーーヒットの引き金になった遊び心

サンドイッチポーチには、長田さんの遊び心がふんだんに盛り込まれている。味わいのある帆布生地を使用し、カラフルな手描きの具材のイラストは、手に取る者を和ませる。さらに、ファスナーを開けると小さなサプライズもある。ハムサンドには豚、タマゴサンドには鶏など、具材に関連するイラストが描かれた裏地が見えるのだ。

長田さんの狙い通り、サンドイッチポーチはパン好きの心を鷲掴みにした。ブースに並べられたサンドイッチポーチは、多くから注目を集めたと、長田さんは振り返る。

「ポーチの中身を見せながら、『これはタマゴサンドだから鶏の絵がプリントされています』と説明すると、お客さんが面白がってくれて、隣の人にも説明しだすんです。ポーチを介してコミュニケーションが生まれていて。特に意識していたわけではなかったですが、『人に話したくなる要素』があったことで、多くの人が反応してくれたのかもしれません」(長田さん)

信頼できるパートナーに出会い、制作効率が向上

「世田谷パン祭り」出店以降、サンドイッチポーチの注文は激増した。人気を後押ししたのは、2016年当時に起きたサンドイッチブーム。具沢山で美しい断面のサンドイッチが注目を集め、世の中の「サンドイッチ熱」が高まっていた。サンドイッチポーチは、購入者のSNSに続々アップされ、急速に認知が拡大していった。

殺到する注文に対応するため、長田さんは言葉通り「フル稼働」して対応した。朝起きて、顔を洗ったらすぐにミシンに向かい、1日中ポーチを作り続ける。休日はなく、週7日でポーチを作り続けていたが、1ヶ月に作れるのは、最大で200個。全部売り切ったとしても、利益が20万円にしかならなかったのだという。

自分の作ったものがたくさんの人に、求められている。期待に応えたい想いはあるものの、このままの制作体制では、販売を続けることができないーー。サンドイッチポーチを継続的に販売していくために、長田さんは制作の外部委託を決意した。

こだわりのある商品だからこそ、長田さんは信頼できるパートナーと手を組みたかった。しかし、工場との意思疎通がうまくできず、指示書通りのサンプルを上げてくれる良きパートナーには、なかなか出会えなかったそうだ。

工場との間に入ってくれる「仲介役」が欲しいーー頭を悩ませていたある日、長田さんは偶然sitateruの存在を知る。求めていた「仲介役」に出会った長田さんは、やっとのことで、良きパートナーである工場に出会うことができた。生産体制が整ったことで、月間生産数は200個から500個にまで増えたという。

「sitateruさんが間に入って、丁寧にフィードバックをしてくださったお陰で、イメージ通りのサンプルを上げてもらえました。以前はイベントに出店したとしても、終了時間まで在庫が持たず、途中で会場を後にすることが多かったんです。しかし、外注制作を行うようになってからは、十分な量の在庫を持っていけるようになりました。露出機会に比例して出会うお客さんの数も増えましたね」(長田さん)

生産から販売まで。インターネット化によるロングテールなものづくりの未来

サンドイッチポーチの開発から2年経った今でも、その人気は衰えることを知らない。最近では、本物のサンドイッチの約1/2スケールで作られた「ガチャポン」用のミニポーチも登場した。

「今後はパン屋さんにも置いてもらいたい」と話し、“新メニュー”の開発にも積極的な姿勢を見せる長田さんは、モチベーションの源泉をこう明かした。

「広告制作をやっていたときは、『この広告で実際に人の心が動いているのか』と不安に思うことも多く、仕事の成果を感じにくかったんです。しかし今は、お客さんが喜んでいる姿を目の前で見ることができる。そうすると、『もっといいものを作りたい』という気持ちが、湧いてくるんですよね」(長田さん)

思わず人に話したくなるーー。持っているだけで、コミュニケーションを誘発するサンドイッチポーチには、「人を喜ばせたい」という長田さんの想いが込められていた。

デジタル市場の「陳列スペース」は無限に広がっている。消費者は「検索」という手段で、そこから自分の好きな物を選んでいく。目立つ場所に置かれた商品だけが売れる時代は終わったのだ。ロングテールの時代、たった1人の手によって作られた熱量高い商品こそが、長く愛されるヒット商品となっていくのではないだろうか。