選択を差し迫られる息苦しさー「こうあるべき」からの解放

これまでCINRAでは、社員からの提案で新しい事業を企画する仕組みはなかったようだ。それでも「30歳という節目の歳を意識した時、女性として結婚、出産、働き方など様々な選択に迫られるような息苦しさを覚えた」という2人は、同世代で同じ思いを持った女性たちの拠り所となる場所を作るべく2016年初頭から、およそ1年かけて、サイトオープンに向けて準備を進めていた。

2人で煮詰めたものが世に出た時、その反響の大きさに驚いたという。

「私自身が10代の頃、文学や映画、音楽などの表現やカルチャーが自分の生き方を肯定してくれました。歳を重ねた今、自分らしく伸びやかに生きている周囲の女性たちの言動から『こうであるべき』という“世間的な正しさ”から解放される経験が増えていったんです。そうした伸びやかに生きている女性たちの言葉から、『大丈夫だよ』と寄り添ってあげられるような“拠り所”ーゆるやかに思いを共有しあえる場を作りたいと言葉にしていました」(野村氏)

Girlfriendsは、2人がShe isを一緒に作っていきたいと感じた同年代はもちろん幅広い世代のクリエイターを始めとした様々な職業の人たちひとりひとりに一通一通手紙をわたしたり、対面して交渉を重ねた。

「世の中的にはSNSのフォロワーが多い方が価値が高いと思われがちなのですが、決してそうとは言い切れないと思っていて。その人が自分の意思を持っているかや、ユニークなアイディアを持っているかは、フォロワー数では測りきれないはず。きちんと私達が心からいいと思える人たちに声をかけていくようにしました」(竹中氏)

毎月ガールフレンドに関連した記事コンテンツがWeb上で見られるほか、読者からコラムを公募したり、イベントに参加できるなど、参加型のコンテンツに力を入れている。

昨年開催されたCINRA主催イベント「NEWTOWN」では、大人の保健室と題してトークイベントを開催した。また、毎月特集テーマについての考察を深める「She is BOOK TALK」などのイベントも併せて開催している。「毎回雰囲気は違うが、顔を見て読者のことを理解できる場になっている」と野村さん。

中でも忘れられないのが、クリスマスの時期に開催したBOOK TALKだという。

「普段心身の具合があまりよくなくて外に出られないと言っていた方が、今回She isのイベントだからと来てくださったんです。おすすめの本への思いを熱意を込めて語ってくれて、『人生で最高の夜かもしれない』とメールをくれたんですね。私個人としても、魂と魂同士が手を取り合うことができた時に幸福を感じることができるので、Webやリアルの場所を通して、心に記憶されるような、何かが変わるようなきっかけをつくれた気がして、嬉しかったです」(野村氏)

広告だけに頼らない、場所をつくる健全なお金が流れるための仕組み

サイトを永続的に運営していくために、コンセプトや思いを具体化すること同じくらい、マネタイズモデルについても議論を徹底的に重ねたという2人。

Webメディアであれば、広告枠や記事広告などが一般的なビジネスモデルだが、今回行き着いた答えは「有料会員モデル」。月額3500円でShe isのMembersになると、毎月特集テーマに応じてキュレーションされたギフトが貰えたり、イベントへの優待を受けれたりするサブスクリプションのモデルで運営されている。

ガールフレンドという作り手と受け手、両方にとって目配せができている感覚を覚える。

「ガールフレンドは作り手であることが多いので、思いを表現する上でShe isが媒介になることができたらいいなと思いました。この場所に共感してくださる方が、それを応援したり、そこに賭けたりすることができる仕組みにしようと決めました」(野村氏)

「インターネットは無料で情報を得ることもできるけれど、きちんとその場所をいいと思ってもらえればお金を払ってコミットしてくれる人もいるのではないかと思ったんです。その分、有料会員の方にはいいサービスを提供したいし、提供するだけでなく一緒に場所を作っていきたい。もちろん、She isという場所に期待してくれる企業とも連携して、B to CとB to Bの両立をしていきたいと考えています」(竹中氏)

これまで有料会員モデルをとるWebメディアには「日経電子版」や「NewsPicks」など、ビジネスマン向けのものはあったものの、ライフスタイルメディアとしては珍しい。

情報がタダで受け取れる現代の読者に受け入れられるためには、コンテンツの魅力やギフトのクオリティに妥協はできない。共感する人々が立場を超えて「場」をつくるための健全なお金の流れを作ること、これが「She is」の大きな挑戦だ。

いわゆるノベルティではなく、プロダクトとしての質とデザインを

ガールフレンドたちとのものづくりは、毎月の特集テーマと制作したいアイテムから、イメージデザインを描き起こしてもらい、話し合いやオンラインでのやり取りでイメージを膨らませながら進めていく。

あえて服作りの経験がないクリエイターたちともものづくりをするのは、「機能として優れていても、デザイン的にかわいくないものがあったり、デザイン的にかわいくても安っぽいことが往々にしてあって。そのどちらも諦めたくなかった」という2人の思いからだったようだ。

これまで、クリエイター伊波英里さんと「未来から来た女性」をテーマにしたカラフルな靴下や、イラストレーターのたなかみさきさんが描くイラストの女の子が着ている「くやしいキャミソール」、ベイクルーズのブランド「EMILY WEEK」とのコラボレーションで「オーガニックコットンサニタリーショーツ」などを、sitateruと共同で開発してきた。(これまでのギフト一覧→

「ものをつくるときにどうしても私達だけではできなくて、もっと面白く、いいものをコンセプトを両方の観点で楽しみながら、一緒にものづくりを進められるというのがsitateruでした。ガールフレンドも作る上で、新しい楽しさがないとモチベーションが上がらないと思うので、そこの感覚を共通できたのもよかったですね」(野村氏)

「初めは毎月同じアイテムで様々なクリエイターさんとものづくりしていくのもいいかもしれないと思っていたのですが、毎月有料会員の方に新鮮なギフトを届けたいと思うと、アイテムの幅も広げる必要がありました。いろんな提案をしてくださったおかげで、選択肢が広がった部分はありますね。一般的な雑誌付録のイメージを超えたクオリティの高さに反応してくれた人もいました」(竹中氏)

プロダクトを作品として楽しむーShe isの大袈裟でないチャレンジ

それにしても、靴下、腹巻、サニタリーショーツと、外から見えないものを多く提案しているのには、どのような理由があるのだろう。

「普段社会と接して生きていると、見えるところからちゃんとしていこうとするじゃないですか。そうなると自分に向き合う時間が減っていってしまうもの。そう思った時に、1回落ち着いて、自分に向き合うもの、自分と対峙できる時間を提案できたらいいなと。たなかみさきさんはキャミソールを着たシーンのイラストレーションを仕上げてくださいましたし、小林エリカさんには腹巻に関する短編をかいてもらって。ストーリーが結びつくとものへの愛着がわくし、例えば腹巻に野暮ったいという価値観があるとしたら、それが変わってくることってあると思うんですよね」(野村氏)

「私達が作っているギフトはある種作品と日用品の間にあるものなので、暮らしの中に自然とアートを取り込んでもらえたらなという思いも込められています。イベントもギフトもメディアとしての可能性も、読者や有料会員、Girlfriendsの方々と言葉を交わしながらどんどん変化させていけたらなと思っていて。そんな風にしてこの場を温めていきたいですね」(竹中氏)

編集部、取材される人、読者、というメディアビジネスの固定的な隔たりで分断するのではなく、共感する人々がゆるやかな共同体となって、ひと・もの・かねを集め、ひとつの「場所」を創り上げていく。「She is」は「Webメディアの新しい形」どころか、「ビジネスとしての新しい在り方」を示してくれている。