「旅行中、毎日の楽しみは『今日はどんなホテルに泊まるのか』ということしかなかったんですが、どのホテルも内装が同じものばかりで、どうしてこうもつまらないのかと思いまいした。もっと個性を持ったホテルを作ろうと、子どもながらに考えていました」(龍崎氏) HOTEL SHE, OSAKA HOTEL SHE, OSAKA」はそんな彼女の想いが体現されたホテルだ。そもそも、ホテルのある弁天町という街は、大都市でも歓楽街でもない、大阪府民ですら用事がなければなかなか立ち寄らない場所。そんなところに“ソーシャルホテル”というコンセプトを持ち込んだ。 ラウンジでは定期的にイベントが開催され、館内には共用キッチンスペースやカフェを併設。またすべての客室にレコードプレイヤーが置かれており、好きなレコードを聴くという体験ができる。特徴は、“ただ宿泊する”という機能面ではない部分が充実していること。このホテルに泊まることで新しい街やコンテンツ、そして人との出会いが生まれる、これこそが“ソーシャルホテル”の意味するところだ。

“平成最後の夏”を主題にしたエモーショナルな一夜

そんなホテルで8月31日、まさに“ソーシャルホテル”の名にふさわしいイベントが開催された。泊まれるフェス「音楽フェス平成ラストサマー」だ。

photo byモリシタヨウスケ

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平成の思い出の名曲をオールナイトでプレイする宿泊付きのフェスイベントで、クラウドファンディングで宿泊付きチケットを販売したところ、即完売。ホテルがフェスをやるというキャッチーさも相まって、SNSで大きな話題となった。 エントランスでのDJプレイはもちろんのこと、平成を体感できるいくつかのコンセプトルームを用意。疲れた利用者が各部屋に集まって、そこにある“懐かしいコンテンツ”を起点に初対面の人同士の交流も数多く生まれた。

photo byモリシタヨウスケ

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「平成の音楽」というキーワードを楽しみに集まった宿泊者が自発的につながりを持つという、まさに同ホテルが目指す宿泊施設のあり方を表現する一夜となった。 「イベントに集まってくれた人たちも18歳から50歳まで本当にさまざまな年齢で、普段(大阪の)堀江で遊んでいるようなモデルの子たちがいたり、東京からファミリーで来てくれたり。そんな普段出会うはずのない人たちが『平成』という共通項だけで集まってくれました。 今はみんなが同じテレビを見るような時代ではありません。趣味が細分化され、コンテンツが多様化しています。そんな中で『平成』という一様なテーマに多様な人びとが集まったことは、とても意味があると思います」(龍崎氏) ホテルプロデューサー龍崎翔子氏

みんなで作る参加型イベントがバズを生む

これほど熱量の高いイベントの背景には、彼女独特のコンテンツの作り方がある。一言で言えば、「みんなで作る参加型のイベント」だ。今回のイベントが生まれたのもほんの些細なきっかけで、龍崎氏が「平成ラストサマーというイベントをやりたい」という投稿をツイッターにしたことに端を発する。 これを面白いと思ったフォロワーが次々にアイデアを投げかけ、イベントはみるみる具現化されていった。イベントグッズのデザイナーやDJですら、投稿を見て「協力したい」と申し出てくれたそうだ。 「シンプルに“バイブス”の合う友達が周りにいることが大きいですね。基本的にイベントはツイッターにアイデアを投稿してリアクションを見ます。ウケが良くなければ、ぬるっとやめちゃうこともあります。 『The Ryokan Tokyo YUGAWARA』でやっている(個室での集中作業に特化した)“原稿執筆パック”もそうだし、最近では“積ん読解消パック”という溜まった本を読むためのプランを考えているのですが、これは旅館のスタッフから上がったアイデアが元になっていて、具体的なコンテンツはツイッターで意見を集めました」(龍崎氏)

“積ん読解消パック”のアイデアを投稿したところ、1万件以上の「いいね」がつき、コメントも500を超えた。ツイッターというソーシャルプラットフォームを介してファンもコンテンツ作りに参加できるからこそ、コンテンツに対する熱量が高まることはいうまでもない。 前述のイベントでも、「#平成ラストサマー」というハッシュタグがイベント開催前に多数投稿されたことで、結果としてイベントのオーガニックな告知にもつながった。ファンが新しいファンを呼ぶことも、こうしたコミュニティーならではだろう。 ファン獲得にもつながるオーガニックな口コミについて語る龍崎氏 「ロイヤリティの高いゲストに来ていただくには、SNSなどでの広告ではなくオーガニックな口コミが必要です。そのためにはコンテンツの満足度が高いことはもちろんですが、そのサービスの内容や新規性の『説明しやすさ』が大切だと思います。 SNS受けをメインにしているわけではありませんが、SNSに載った時にどう見えるかを意識しながらコンテンツを設計しています。 言うなれば、ジブリ作品や名探偵コナンのように、間口が広くて深さのあるコンテンツ。 社会の流れを踏まえ、自分たちなりの考えや問題提起に基づいてコンテンツを作りつつ、一見しただけでも概要を把握できるような分かりやすい表層を作っています。 」(龍崎氏)

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