刺繍の魅力を広げるために、デザイナーに直接プレゼン

昭和43年から刺繍を中心とした二次加工業に従事するボーグ服飾。受け仕事としてブランドの手刺繍・機械刺繍加工をメインで行ってきた同社だが、2代目社長に就任した楢崎かほり氏、専務に就任した弟の田中昭司氏入社以来、世の中のトレンドに先行するように、刺繍の可能性を模索・提案してきた先進的な企業と言える。

そもそも、こうした加工産業が受け仕事になってしまう背景には、アパレル業界の流れ作業とも言える生産構造があった。効率よく加工先を見つけたいブランドと、コンスタントに仕事を続けたい工場をつなぐように「振り屋」が存在。楢崎氏は商社のアパレル部門勤務を通じてこうしたアパレル業界の構造を知り、バブル崩壊後の不景気の中、跡を継ぐ決意をしたそうだ。

「これまでのサプライチェーンに乗っかるだけでは、どうしても受け仕事になり、刺繍の魅力を広げることができないと感じていました。商社での経験からブランドのニーズなどを理解していたため、入社したばかりの頃は、刺繍のニーズがありそうなブランドさんに片っ端から電話をかけて、サンプルを直接ブランドに持っていって話をさせてもらうところからのスタートでした」(楢崎かほりボーグ服飾社長)

「自分たちはつねに黒子だ」と語る楢崎氏はポリシーとして、直接デザイナーとやりとりをし、要望を掘り下げてアイデアを提案することを続けた。手刺繍も機械刺繍もそれぞれにメリット・デメリットがあり、それを踏まえた上で、企画提案をする。これまで実験的に数多くのサンプルを作ってきたおかげで、工場にはインスピレーション源としてそれらを見にくるデザイナーも後を絶たない。楢崎氏の営業の甲斐あって、現在では国内でもコレクションブランド含む、数多くのブランドが刺繍加工を直接同社に依頼してくれるようになった。

「刺繍って、糸の使い方、針の刺し方で、本当にいろいろなデザインの幅があるんですよ。難しそうなことでも、機械をうまくカスタムして量産ができるんです。その可能性の幅をを直接デザイナーに伝え、一緒に実験しながら作っていきます。デザイナーさんの理想は、できる限り手頃な価格に抑えながら実現したいと、いつも思っていますね。この工場には古くからのサンプルがたくさんあるので、デザイナーさんがここでインスピレーションを得たり、一緒に機械を触りながら刺繍の入れ方を考えたりもしますよ」(楢崎社長)

刺繍サービスが店頭での一つの体験価値となる

ボーグ服飾は、直接消費者と接するようなブランドとのコラボ企画にも積極的だ。今年の5月には、日常のモードウエアを提案するレディースブランド「DRESSLAVE(ドレスレイブ)」とコラボし、店頭での刺繍カスタムオーダーサービスをサポートした。店頭で2万5000円以上を購入した顧客に対して、ワンポイント刺繍のデザインを選んでカスタムオーダーできるというサービスだ。

「DRESSLAVE」はsitateruで通常の衣服生産を依頼していた中、連休に合わせた来店施策として、なにか新しいことをしたいと相談。sitateru連携先であるボーグ服飾と相性がいいのではと提案し、すぐにボーグ服飾とのコラボが実現した。

「DRESSLAVE」のブランド担当者はコラボの理由を、「自社のモードな雰囲気にぴったりだった」と説明する。実際にコラボが決まると、スピード感のあるやりとりを経て実現した。ここにはやはり楢崎氏のアイデア力と行動力が大きく影響していそうだ。

「洋服の生産と販売に限らず、もっとワクワクする体験をやっていきたい。今回のイベントでも顧客が一日に何度も遊びに来てくれたり、交流のために長時間滞在してくれたりと、店舗としての新しい役割を提案することができました。顧客からも感動したという声をいただきましたし、今後も楽しい企画を継続していきたいと思います」(DRESSLAVE 担当者)

受け仕事からブランドとの共創、さらには顧客の体験価値の創造まで。既存の加工業者というビジネスモデルにとどまらず、進化を続けるボーグ服飾。楢崎社長は、今回の新たな挑戦と今後の刺繍文化の可能性をこう締めくくった。

「刺繍をもっとセンスよく身近に取り入れてもらいたい、その魅力を直接発信できるような部分を少しずつ増やしていきたいと思っているんです。これまでお付き合いさせてもらった横のつながりの専門業者さん達にも協力いただきながら、オリジナルプロダクトを作ったり、オーダーメイドの需要にも積極的に応えていきたいですね。いま、自分だけのスペシャルなものというのが大事になってくる中で、刺繍ってぴったりなんですよね」(楢崎社長)