テクノロジーを武器に、社会と接続するファッションデザインに挑む

「大量生産・大量消費による環境破壊、そして個別固有に違う人間の体を規格サイズにねじ込む行為は、果たして正しいのだろうか」

人間にとって服とはなにか───。東日本大震災は、日本の人々にとって様々な「あたりまえ」を見直すきっかけとなったが、衣服においてもそうした問いを掲げる展覧会や書籍の出版も頻繁に行われた。「ファッションの批評」という現象だ。ファッションデザイナーや研究者達が、社会との接続を考えた服づくりを志向するようになったのである。

当時大学に入学したばかりだった川崎さんは、そうした状況に対峙し、既存のファッション産業の仕組みに疑問を抱くようになった。そしてテクノロジーを武器に「ファッションと社会の接続」に挑むことを決めたという。

「一般的に、ファッションデザイナーを志す人はとにかく服を着ることが好きですよね。もちろん僕もそうなのですが、それよりも“ファッションと社会の接続”に深い関心があったんです。新しいファッションの可能性を探るため、『衣服と技術の融合』を自らのテーマにしようと決めました」(川崎さん)

従来のファッションデザインを更新する技術として、川崎さんが最初に注目したのは、バイオテクノロジーだ。タンパク質を原料に人口クモの糸を開発したSpiber株式会社のように、ファッション領域外から新たな繊維が生まれていることに興味を持ち、「素材から服を作る」という新たなファッションデザインに取り組んだのだ。

川崎さんが手がけた、3Dスキャンした型にバクテリアを培養させて服を作ったプロジェクト『Biological Tailor-Made』。第22回文化庁メディア芸術祭でアート部門 審査委員会推薦作品にも選出された。

「バクテリアで作った布は、化学繊維やプラスチックで作られた素材に比べ、廃棄の際の分解が容易です。だから自然環境に優しい服づくりが実現できる。さらに、バイオ素材は可塑性が高いという特徴を持っています。与えた形に寄り添ってくれるんですよね。身体データを3Dスキャンして生成した型にバクテリアを培養することで、着用者の身体サイズに最適化した服づくりを試みました」(川崎さん)

廃棄物ゼロの衣服生産を実現する「Algorithmic Couture」

「“バクテリアと一緒に”服を作ったあと、今度はよりデジタルな方向性───“計算式と一緒に”服を作ってみようと思ったんです」

バイオテクノロジーの次に川崎さんが注目したのは、アルゴリズム───AIにおける機械学習の技術だ。ファッションデザイナーの佐野虎太郎、デザインエンジニアの清水快、マシーンラーニングエンジニアの藤平祐輔とともにSynfluxを結成し、アルゴリズムを活用した技術「Algorithmic Couture」を開発した。

Algorithmic Coutureは、一人一人の身体にフィットした服づくりを廃棄物ゼロで実現する新しい衣服生産システム。3Dスキャンによって、人の身体形状にフィットするパターンを作成し、アルゴリズム技術で生地の残布ゼロのパターンメイキングを行うことができる。さらに、着用者の好みに応じたカスタマイゼーションも可能にする。ユーザーはWEB上で型紙ごとにデザイン・素材・色などを自由に選ぶことができる。

アルゴリズムによって、超微細な三角形と四角形を組み合わせて曲線を描いている。そうすることで、四角い布を余すことなく使うことができ、限りなく残布ゼロのパターンメイキングが実現する。

川崎さんと共に、Synfluxのデザインディレクションを担う佐野さんは、Algorithmic Coutureの特徴を以下のように説明する。

「“四角い布に対して曲線を描く”といった従来型のパターンメイキングの手法だと、布の15%が廃棄されてしまいます。しかしAlgorithmic Coutureを活用すれば、無駄な廃棄物を排出せず、自然環境に配慮した服づくりが行えます。さらに、着用者のサイズだけではなく色や素材といった好みに合わせた服づくりも可能です。Algorithmic Coutureは、自然環境と人の双方に最適化した衣服生産ができるシステムなんです」(佐野さん)

Algorithmic Coutureの画期的な技術は、海外からも脚光を浴びている。今年4月、廃棄物ゼロの循環型ファッションを目指した、非営利財団H&M Foundation(H&Mファウンデーション)が主催するコンペティション「第4回 Global Change Award」で、日本人唯一の受賞者として表彰台に上がったのだ。これを機に、Algorithmic Coutureはビジネス展開に注力していくという。

「ニューヨークで開催されるイノベーション促進プログラムに参加します。様々なファッションブランドや投資家と話しながら、Algorithmic Coutureの導入もしくは共同実験をしてくださるパートナーを探したいと考えています」(川崎さん)

さらに川崎さんは、Algorithmic Coutureが実用化された場合、企業・消費者双方に以下のようなメリットが生じるのだという。


「実際にアパレルメーカーがAlgorithmic Coutureを導入すれば、無駄な廃棄や在庫が減りますし、製造課程の自動化や最適化によって生産効率も上がります。もちろん導入コストはかかりますが、最終的に経済的、環境的な無駄の削減につなげることができると思っています。さらに、昨今のファッション産業で注目を集めているマスカスタマイゼーション、あるいはD2Cの波にも乗ることができる。ZOZO SUITやNIKE IDのように、ユーザーが“自分だけ”の服を買うことができるようになるんです」(川崎さん)

サステナビリティは、トレンドではなくスタンダードであるべき

近年のファッション産業において、Algorithmic Coutureのように「地球と人に優しくあること」は重要な指標となっている。2015年の国連サミットでSDGsが採択されたことを契機に、多くのブランドが「サステナビリティ」をスローガンに掲げるようになったのだ。

環境負荷の少ないオーガニックコットンを使用するファッションブランドが増えているのも、そうした背景があるからだ。一方で、サステナビリティの本質をアパレル企業や消費者が本質を理解しているかというと、それはまだ十分ではないだろう。サステナビリティがトレンドワードのようにもてはやされている状況に対して、川崎さんは「サステナビリティは、トレンドではなくスタンダードであるべき」だと指摘する。


「ファッションにおいてサステナビリティを実現するためには、素材・意匠設計・製造・流通・廃棄の5つの過程に対して、包括的にアプローチする必要があります。オーガニックコットンの使用ももちろん素晴らしい取り組みですが、その先にある過程まで包括的にアプローチしなければ、真のサステナビリティは実現しない。従来の川上から川下といった直線的な製造の捉え方というよりはむしろ、循環する円環としてのプロセスを想像する必要があるのです。そして、サステナブルであることがスタンダードにならなくてはいけません」(川崎さん)

真のサステナブルファッションは、衣服の製造から廃棄まで地球と人に優しくある必要がある。しかし廃棄という行為は、消費者に委ねられるものだ。そこに対して、ファッション産業がするべきは啓蒙だけではなく、サービスやシステムの革新だと川崎さんは言う。

「消費者に『節約せよ』とばかり啓蒙するのでは十分ではありません。、カスタマイゼーション、EC、オンデマンド、トレーサビリティ、修理や交換対応など、ユーザがメリットを感じるサービスを設計することが重要です。さらに再生可能なバイオマテリアルが衣服に採用されるようになれば、Algorithmic Coutureのようなデザインやマニュファクチャに関する技術と組み合わせることで、デジタルでサステナブルな衣生活が実現すると考えています」(川崎さん)

スペキュラティヴ・ファッションデザインで、ファッションをアップデートしたい

ファッションを大きく前進させるのは、テクノロジーだ。川崎さんのこれまでの取り組みからも、その事実は明らかだろう。ファッション産業の聖地とも言われるイギリスでも、テクノロジーによるファッションの更新が行われている。

「ロンドンには、ファッションデザイナー不在で、ニットウェアを販売する『UNMADE』というサービスがあります。ユーザーがオンラインサービス上で好みの柄を選んだら、そのデータが工場に送られて、ニットが出来上がる。工場から直接ユーザーに製品が届く。彼らはアンメイド、つまり衣服を“作らない”ファッションブランドなんです」(川崎さん)

Algorithmic CoutureやUNMADEのように、ファッション領域外から新しいファッションが生まれている一方で、ファッションの本流に身を置きながら、先駆的な取り組みを行うデザイナーも存在している。

「イリス ヴァン ヘルペン氏は、アレキサンダー・マックイーンの元で実務経験がある正統派のファッションデザイナーですが、3Dプリンティングによる服づくりを行なっています。彼女はオランダを代表する研究型工科大学である、デルフト工科大学の研究チームと新しい技術と表現の開発というビジョンを共有しつつコラボレーションを行うことで、自身のクリエイションの幅を広げています。

日本にも慶應SFCやKMD、東大情報学環、RCA-IIS Tokyo Design Lab、IAMASなど、領域横断型の研究機関や教育機関は複数あります。これらの機関とファッション側が、短期間の制作でとにかく消費を加速させていくという流行中心のフォーマットを超えて、長期的な視野の下で共同研究に取り組めるようになったとき、ファッションデザインはアップデートされていくのだと思います」(川崎さん)

実はテクノロジーに関する知識は、世界中に開示されている。オランダとスペインにある『Fabricademy』は、バイオテクノロジーやコンピューテショナルデザインを活用した服づくりのレシピをWEB上でフリーで公開している。英語力さえあれば、誰でも閲覧できるのだ。

サステナブルであること、そしてそのためにテクノロジーを使うこと。この先のファッションがどうあるべきかについての条件は明らかになりつつある。そしてこれから必要となるのは、ファッションの本質に向き合い、問い続ける姿勢ではないだろうか。未来のファッションの在り方や可能性を思索する川崎さんは、自身をスペキュラティヴ・ファッションデザイナーと称している。


「ファッションは本来、新しいことを寛容に受け入れる文化だと捉えています。しかし他方で、自分が身にまとう衣服にテクノロジーが介入してくることに対して違和感を感じる人が多いのも事実です。僕はそうした状況がなぜ生じているのかについて「ファッションにとって技術とは何か」というレベルで考え、オルタナティブなファッションを提案していきます。だから『ファッションテック』や『エコ』あるいは『エシカル』という言葉を安易に使いたくないのです。新しさがありながらも『結果的に』テクノロジーを使っていて、サステナブルだと言えるようなファッションを作りたい。スペキュラティヴ・ファッションはファッションにおける『次のあたりまえ』を思索/試作することだと考えています。」(川崎さん)