とにかく結果をだして、業界No.1のアカウントをつくる

2010年に登場したInstagramにより、世界はビジュアルでつながった。写真や映像で「世界観」を表現できるInstagramはファッションとの相性が良く、今や多くのファッションブランドが公式アカウントを運用している。数あるアパレル企業の中でも、いち早くInstagramアカウントを開設したのが、株式会社バロックジャパンリミテッドだ。その背景には、同社のSNSチームをけん引する松本つかささんの存在がある。

「Instagramが登場した当時、私はSLYのショップスタッフだったんです。初めはプライベートで発信を楽しんでいたのですが、そのうち『これは、ブランドとして公式アカウントを運用するべきじゃないか』と感じることが増えてきて…。ちょうどLINEの普及によってメルマガの開封率も下がってきた頃でしたし、お客様との新たな接点を作ることができると思ったんです

松本さんは、上司にSLYのInstagram開設を提案。さらに、その運用は自ら行うと申し出た。本社のSNSチームに異動した松本さんは、SLYのInstagramを立ち上げた後、MOUSSYなどの他ブランドのアカウントも開設した。

今は「ショッピング機能」を利用すれば、商品の購入導線を引くことができるが、初期のInstagramは売り上げへの寄与が見えづらかった。数字での効果がわかりにくいため、社内での理解をなかなか得られなかったと、松本さんは当時を振り返る。

「プレスでもなく営業でもないSNSチームのことを『何をやっている人たちなんだ』と疑問に感じる人も多かったと思います。だから『とにかく結果を出して、業界No.1のアカウントにしてやるんだ』と密かに闘志を燃やしていましたね(笑)。Instagramは雑誌よりもクイックに情報が届きますし、影響力もある。それに海外ブランドのアカウントがどんどん成長していたので、『Instagramは一過性のブームではない』と、自分の感覚を信じて運用を続けました

今や各ブランドにとって、Instagramは「なくてはならない存在」となっている。松本さんは「売り上げ効果が見えづらい」というジレンマを、どのように解消したのだろうか。

「Instagramが起点となってお客様がお店に足を運び、売り上げに繋がったとしても、数字上では『Instagram効果』だとわからない。だからInstagramでしか露出させない商品を販売して。それが爆発的に売れた時にようやくソーシャルの力を社内で認めてもらえた気がします。ある時期から、ショップで『Instagramを見て来店される方が増えた』という声も聞くようになってきて。その時に『運用を続けてよかったな』と感じましたね」

長く愛されるブランドになるために、関係者の思想を紡ぐ

松本さんのチームが主担当として運用するMOUSSYの公式Instagram「MOUSSY OFFICIAL」は、日本のレディースファッションブランドの中で最も多い60万超ものフォロワーを誇るアカウントに成長した。松本さんは「運用を仕事として割り切っていたら、ここまでアカウントを成長させることができなかったと思います」と笑う。

「休日でもInstagramを見ていますし、突然追加される新機能はすぐに使っています。まさにInstagramに寄り添い、振り回されている毎日です(笑)。公式アカウント運用担当者として『Instagramを使いこなしている』と思われたいんですよね。『バロック、やってんなー』って(笑)」

ビジュアルが軸となるInstagramは、投稿のクオリティが人気を左右する。松本さんをはじめ、バロックジャパンリミテッドのSNSチームのメンバーとプレスチームは、その「クオリティの重要性」を理解し、SNSチーム全員がPhotoshopやIllustratorなどのグラフィック系ソフトを使いこなす。さらに、Storiesにアップする動画もAdobe Premiere Proを使って編集しているのだという。

「実はアカウント開設当時、私はスマホアプリで画像を加工していました。しかしそのクオリティに限界を感じたので、社内のデザイナーにPhotoshopやIllustratorの使い方を教えてもらってグラフィックの技術を習得したんですよね。外注することもできますが、お金もかかりますし、急ぎの案件には対応できません。SNSはスピードが命なので」

MOUSSYのInstagramが圧倒的なフォロワーを誇る理由は、統一された世界観と丁寧な商品説明だ。松本さんは「SNSチームの仕事の本質は、ブランド内の情報を整理してわかりやすく伝えること」だと話す。

バズを起こすことが、Instagram運用の目的ではありません。Instagramは、10年、20年先まで愛されるブランドとなるために、ファンコミュニティを作る場所でもある。だから私たちは、ブランドに関わる様々な人の声に耳をすまし、情報を集めているんです。

たとえば、投稿のレイアウトはプレスチームに意見をもらいながら考えていますし、営業チームには毎シーズン『売るべき商品』をヒアリングしています。ショップスタッフにはお客様の要望を共有してもらい、さらに生産や企画チームには、商品の特徴やこだわりについて、丁寧に聞き出しています。それらの情報をもとに『どうやったら商品が売れるのか』『どうやったらお客様の悩みが解決するのか』を考え、デジタル上で発信しているんです

お客様参加型のアカウントで、エンゲージを高める

MOUSSYの世界観や新作の紹介、商品のバックストーリーなどを紹介する「MOUSSY OFFICIAL」の他にも、公式アカウントがある。「MOUSSY SNAP」だ。これは「ブランドにとって最も重要な存在である、お客様と一緒に育てるアカウント」として、松本さんが立ち上げたものだ。

「『お客様に、ソーシャル上で楽しんでもらうにはどうしたらいいだろう』と考えた結果、『MOUSSY SNAP』を作りました。MOUSSYは揺るがない世界観を持ちながらも、広い層の方から愛されるブランドを目指しています。ですから『かっこいいけど、着こなせないな』と思われたくないんですよね。そのために『MOUSSY SNAP』には、ショップスタッフによる、等身大の着こなしを投稿しています

「MOUSSY SNAP」に登場するショップスタッフは、「ビジュアルスタッフ」と呼ばれるカリスマスタッフだ。「ブランドイメージに合うビジュアルを持っている」と判断された彼女たちは、主に渋谷109店やルミネエスト新宿店などの大型店舗に配属され、他のショップスタッフ同様に、接客を行なっている。

「『MOUSSY OFFICIAL』の投稿は、ブランドの世界観を表現するためのイメージビジュアルでもあります。しかし、『MOUSSY SNAP』に投稿しているビジュアルスタッフの着こなしは、等身大。彼女たちをきっかけに、MOUSSYの服を選んでくださる人がいてもいいと思うんです」

さらに、ファンとのエンゲージメントを高めるために「MOUSSY SNAP」が積極的に行なっているのは「Repost」だ。MOUSSYの商品を使った顧客の着こなしをフィード上で紹介しているのだ。

「Instagram上には、MOUSSYの服をすごく素敵に着こなして、写真をアップしてくださる方が多いんですよ。もしも私がその方たちと同じ立場だったら、公式アカウントに紹介してもらえたらすごく嬉しいだろうなぁと思って、Repostを始めました。するとやっぱり、その投稿を見た他のお客様から『私もRepostしてほしい』という声も上がるようになって。
 ある時、お客様がアップしたデニムの写真をRepostした時に、面白いことが起きたんです。その投稿を見た人たちが次々に『私も持ってる!』と、同じデニムの写真をアップしてくれたことで口コミが一気に増え、拡散が起きたんです。『お客様参加型』のアカウントだからこそ、予期せぬPRにも繋がったのだと思います

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媒体が、紙からデジタルに変わっただけ。ブランドの根幹にあるメッセージは変わらない

憧れでありながらも、身近な存在でいること――バロックジャパンリミテッドのブランドが多くのファンに愛され続けるのは、そのスタンスにあるのだろう。そしてそれは、同社が創業当時から築き上げてきたものでもある。

「MOUSSYもSLYも、もともと『カリスマ店員』の方々が立ち上げたブランドです。彼女たちは常に憧れの対象でありながら、ショップに行けば会える身近な存在でした。バロックのブランドはそれぞれが揺るぎない世界観を持っていますが、どんなお客様にも手軽に楽しんでいただける存在でいたい。そのメッセージ自体は変わっていなくて、発信の場が雑誌からSNSに移行しただけだと思います。私たちは先輩方から受け継いだメッセージを、時代に合わせた形で発信しているだけなんです」

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