第一織物は1948年、福井で生まれたテキスタイルメーカー。大手原糸メーカーの下請けから始まった同社だが、1996年に発売したポリエステル素材「DICROS(ディクロス)」が絶大な人気を集め、事業を大きく拡大してきた。今では売り先の7割が海外。“ダウン抜け”しないダウンジャケット向け生地がMONCLERに採用された他、SAINT LAURENTやJIL SANDERなど、海外のラグジュアリーブランドに支持されるグローバル企業へと成長した。

技術だけでは必ず追いつかれる

そんな第一織物が“原点回帰”と銘打って新ブランド「ORDICS」をローンチした背景には、機能性追求・価格重視というアパレル業界の現状がある。

「たとえば、原宿でパンケーキに高いお金を出して並ぶような若い子が、どうしてファッションにはこだわらないのだろう、と感じていました。低価格・生産性に注力するアパレル業界ですが、ハイテク高機能を突き詰めると近い将来には日本よりもアジアの方が技術力が優る時代が来るかもしれないし、投資をし最先端の機械を購入すればどこでも生産ができる。今後の日本では『本物思考』しか生き残れないと思ったんです」(吉岡隆治/第一織物社長)

「ORDICS」の特徴を挙げるならば「素肌美人に薄化粧」だと吉岡社長。ここ数年は後加工に力を入れてきた同社が原点に立ち戻り、匠の製織技術を追求した生機(きばた)を作ったという。技術は必ず追いつかれる。そんな中で、効率性だけを追い求める工場には絶対に真似できない“非効率的”な素材を生み出した。

「もともと直球勝負だった投手がいろんな変化球を覚えた先に、ストレートど真ん中で勝負をするような感覚でしょうか。機能性を追求する素材が多い中、わたしたちは、同じ糸で同じ密度の生機を作っても、きっと他社には真似できない風合いを実現しました。後加工も最低限の“薄化粧”に留めています。この匠の技術による着心地は、当社にしかできないはずですから」(吉岡社長)

商品開発のキーワードは「ローテク&高感性」

「ORDICS」は第一織物の企業風土をそのまま反映したようなブランドといえる。キーワードは「ローテク&高感性」だ。ボタン一つで操作が誰もができる機械的な要素に、コストをかけて職人的なアナログさを組み合わせることで他にはない素材を生み出す。そして、機能性ではなく、美しさや仕立て栄えなどの感性を打ち出すのだ。吉岡社長が重要視するのは何よりも見た目の美しさ。「3メートル離れて違いがわかるか」だという。

第一織物には、新素材の条件となる3カ条がある。「オリジナルであること」「完成度を高めること」「価格と価値のバランスをとること」だ。ローテク技術によって生み出すオリジナル素材であっても、すぐには商品化はできない。時間と手間をかけて試行錯誤を重ね、完成度を上げてからでないと製品にはならない。「ORDICS」の開発にも3年をかけ、毎月数十点のサンプルを作り、改良を続けてきたという。その上で、市場で販売できるコストでなければ、もちろん製品化はできない。

「試行錯誤をしてまずは最高の素材を生み出し、なぜその素材が最高なのかを検証するんです。中途半端なモノを作ったら誰も見向きもしないし、この会社でやる意味がなくなってしまう」(吉岡社長)

製品がオリジナルであるためには、意思決定が重要だ。現状ではそんな商品も吉岡社長が認めない限り世の中には出ない。開発段階においても、営業が聞いてきたブランド側のニーズや判断を取り入れることは決してない。判断基準がブレてしまい、結果として中途半端な商品になりかねないからだ。

「ブランドの思いを確実に伝えるために、商社も問屋も通さずに直接販売をしています。わたしたちがやっているのは完全な『プロダクトアウト』。過去の成功体験やニーズに引っ張られると、世の中にないものは生み出せないんです」(吉岡社長)

市場にない素材だから、売れるかどうかはやってみないとわからない

「売れるかどうかはまだわからないですが、なんの説明をしなくても評価をしてくれる海外メゾンもすでにいます。大きな会社ではないので、たくさん売る必要もない。作りたいものを作って、評価してくださる人に評価してもらえらたらそれでいいんです。世の中にないモノを作っているので、他社との比較もできません。むしろ、類似品が出てきたらうれしいくらいです。コピーが出回っても、残るのは本物だけですから」(吉岡社長)


市場ニーズに沿うことなく、独自プロダクトの開発に注力する。第一織物がやっていることはビジネスというよりも研究に近いだろう。だからこそ、売れるかどうかはわからない、というのが吉岡社長の考えだ。それでも、トレンドに沿わないモノ作りをしているからこそ、2~3年して軌道に乗れば、そこから10年以上は安定して売れるロングヒットアイテムとなる。

「ぼくがやりたいのは、生地メーカーとアパレルが一緒になって、メイド・イン・ジャパンをやりましょうということです。日本人の感性は素晴らしくて、モノ作りに関しては日本は絶対に勝ち残れる。われわれの生地だけではなく、製品としてもっと海外に出ていくようになればいいなと思うんです」(吉岡社長)