話題のゲリライベントでは、1駅1着、合計20着のTシャツをロッカーに仕込み、先立って告知をしたところ、暗証番号の発表から30分以内には全てのTシャツがなくなった。駅によってはロッカーの前に人だかりができたほどだ。イベントの様子はファッション系メディアはもちろんのこと、「販促会議」といった業界紙にまで取り上げられ、ブランドの知名度を大きくあげることとなった。

「ゲリラでTシャツを無料で配るために朝からロッカーを探し、仕込みをして、お昼12時に暗証番号を公開しました。公開後から商品に関するダイレクトメッセージや問い合わせが相次ぎ、その反響に驚きましたね」(クリエイティブ・ディレクター 杉山浩輝氏)

美大生による“副業”ブランドが生まれるまで

dilemmaは現在、クリエイティブ・ディレクターの杉山氏と古くからの友人であるブランドマネジャーの高前翔太氏、経理を担当する他メンバーの3人が中心となって運営をしている。最大の特徴は、メンバー全員が“副業”でブランド運営をしている点だ。

杉山氏は1991年、名古屋で生まれた。小中学校時代からストリートファッションに傾倒し、当時人気だったカードゲームを転売してはファッションにお金をつぎ込むような少年だった。理系の高校に進学しても、勉強そっちのけでバンドやデザインに時間を費やす日々が続く。結果、浪人をして武蔵野美術大学へ進学することになる。

「グラフィックやパッケージなど、幅広いプロダクトデザインに関心があったので、大学進学時にはファッションは一旦後回しにして、美大に入ろうと思いました。浪人中に今の相方である高前と出会い、当時からグラフィックを載せたTシャツの制作をしていました」(杉山氏)

在学中は「maxilla(マキシラ)」というビジュアルプロダクションカンパニーの手伝いをし、デザインや映像制作について現場で学んだ。当時有名アーティストのミュージックビデオに携わることで、杉山氏が得意とするデザインと音楽という基礎が出来上がったという。就職活動でもデザイン系を志望し、広告系大手企業のデザイン職に内定をもらう。ファッションへの夢を持ちながらも一度は就職するという道を選んだわけだ。

19SSローンチイベントにはDATSのMONJOEもDJとして駆けつけた

就職から1年が経った2017年、友人でもあるアーティストのDATSが初めてフジロックフェスティバルへ出演することになる。自分も何かやりたいとの思いから衣装を作ることを提案、4~5型のTシャツサンプルを作ってメンバーに渡した。これがきっかけとなって、ブランドを立ち上げる。

18SSコレクションルック

「ずっとブランドをやりたいという思いを持ち続けていたので、フェスがきっかけとなって必然的に始まったような感じです。Tシャツを作るにも型を海外から探したりプリント工場をいくつも回ったり。当時刺繍のスウェットやジャージのセットアップなども用意したので、どうせ始めるならとインスタグラムを開設し、型数を増やして2018年春夏シーズンからブランドをスタートしようと決意しました。もちろん原価や在庫などは全く考えていませんでしたが(笑)」(杉山氏)

そんなファーストコレクションがバイヤーの目に止まり、初めての展示会で原宿の「ファン(FAN)」や新潟の「ヌーヴェルトマガジン(NOUVERTE MAGAZINE)」、渋谷の「アール フォー ディー(R FOR D)」などが取り扱いを決めた。副業だが、ブランドを続けようと決意した瞬間だった。

「ブランド名のdilemmaは自分がファッションブランドをやりたいにもかかわらず、デザインの本業があるという“ジレンマ”をストレートに表現したものです。イギリス人の友人にブランド立ち上げの相談をしたところ、イギリス訛りで『それはダイレマだね』と言われたことが名前の由来になっています」(杉山氏)

洋服ありきではない、新しい洋服の作り方

dilemmaでは毎シーズン、漫画を作っている。しかも毎回、海外の無名アーティストに制作を依頼。出来上がった漫画に出てくる2次元のグラフィックや洋服が現実でdilemmaのアイテムになるという、ストーリー先行型の珍しいモノ作りを行っているのだ。

「漫画を洋服に落とし込むというアイデアは昔からありました。毎シーズン“何かと何かの間”、つまり何らかのジレンマをテーマに言葉を作り、それが文章となり、ストーリーが出来上がります。常に高前が海外のアーティストを調査しているので、依頼したい作家を決めてSNSでアポをとり、漫画を描いてもらうという流れです。僕らはそこに出てくるグラフィックや洋服を形にするんです」(杉山氏)

最新の2019年春夏シーズンではブエノスアイレス出身のイラストレーターBERLIACがコミックを担当したが、有名作家より無名のアーティストを“ディグる”ことが好きだと話す杉山氏からは、音楽やストリートの精神が滲み出ている。

コレクションにシーズンテーマがあるように、カプセルコレクションにもきちんとメッセージがある。話題となったロッカー施策で彼らが伝えたかったことはネット時代にリアルな場所に足を運ぶ意味だという。

「ECサイトは便利ですが、そこには店員との会話やおもわぬ衝動買いがないですよね。でも、店頭で話して買いたくなったものには愛着が湧いたり、その日のことを忘れなかったり、ストーリーがついてくるなと感じていました。

だから、ロッカーまで取りに行った人はTシャツをタダでゲットできる。それが面倒ならECサイトでお金を払って買ってもらう。決めるのは消費者なので、どちらがいいとは言いません。ただ、僕らとしてはそういったリアルの意味を忘れないようにしてもらいたかった」(杉山氏)

ジレンマから生まれるクリエイション

そんな杉山氏は現在も、本業としてデザインや企業の広告案件を手がけている。そこにメリットはあるのだろうか。

「会社から学んだ知識は大いに役に立っていますし、自分のブランドでは会社でできない奇抜なアイデアや会社から学んだノウハウを実践することで、フィードバックを得ることができます。さらに、そこで学んだことを反対に本業に生かすこともあるでしょうから、メリットは大きいんだと思います。特に若い人たちがどうすれば動くか、ということは企業にとっても大きな課題なので、それを自分自身現場でトライできているのは非常に意味があるんです」(杉山氏)

もし専業にしてしまった場合、“副業”ブランドとしてのジレンマがなくなってしまうのではないだろうか。

「副業という悩みだけがジレンマではありません。全てが完璧だという人はいないでしょうし、誰もが違うバックグラウンドを持っているので、テーマにすべきジレンマはたくさんあるということをブランドで伝えていきたいんです。そもそもそのジレンマを今後形にするのが洋服だけとも限らないですからね。表現の幅を他業種に広げることで、クリエイティブチームとして大きくなりたいのかもしれません。」(杉山氏)

世の中にはさまざまなジレンマが存在する。人種や国籍、性別だってそうだ。テーマの数だけ彼らのクリエイションは続く可能性があるということだろう。しかし、自分たちの組織が大きくなればなるほど、そこにはまた個人的なジレンマが増えるのかもしれない。そうやって常にジレンマに向き合うことでブランドを成長させる点は、どこかアーティスティックだ。

「チームが大きくなれば、確かに悩みの種は増えるでしょうね。でも、そこで生まれるものこそ、僕らが作るべきプロダクトなんだと思います。自分で言うのもなんですが、やはり根が美大生なので、感覚的に自分を追い込むことが好きなのかもしれません。その反面、会社に入ったことでロジカルな部分を学ぶこともできました。その両方を使って、これからもブランドの形を模索していきたいと思います」(杉山氏)

 

【19SS 展示会/受注会 情報】
日程:10/18(木)~11/4(日)
時間:13:00〜22:00
場所:R for D
住所: 東京都目黒区駒場1丁目4−5 日興パレス駒場 B1F