作り手の想いを受け取る情動

岡山・児島。兄弟と共に、染色・洗い加工工場のニッセンファクトリーへ。工場とのコミュニケーションは、主に弟の島田さんが担当している。アポ無しだったらしいが、島田さんは慣れた感じで工場の中に入っていく。ニッセンファクトリー代表の難波社長は、「おお、急に来られてもなあ」と少々迷惑がりながらも笑顔だ。

「いや、すんません。ま、ちょっとだけ工場見させてもらえたらと思って」

てへ、と島田さん。この距離の近さ。歳は二回りほども離れているはずなのに、気さくに会話する。しかし、失礼な感じはしない。きっと何度も何度も工場に通い、ものづくりをしてきて、信頼関係ができているのだろう。

その後向かったのは、デニム生地工場ショーワ。ここでも、ひょうひょうと工場内を歩き回る島田さん。この春に出た新商品ナイロンデニムシャツの生地について、工場の会長や社長と打ち合わせる。

「商品づくりはだいたい工場の人から教えてもらった技術がきっかけになって、それを使ってなにかできないかって考えることが多いかな。最初にこのナイロンデニム生地の話を聞いたとき、衝撃やった。工場の人らは新しいことに本気で挑戦しとるから、俺らはそれをもっと多くの人に伝えたい。頻繁に出入りしている分、期待してもらっている。頑張らな」(島田さん)

作り手のことを心から尊敬し、彼らのものづくりへの真摯な想いを受け取る情動がある。それが島田さんの距離の近さだ。

適度な近距離と後出しのストーリー

時は変わり、5月、神奈川・三崎。店舗を持たない「EVERY DENIM」では創業当初から、ゲストハウスやカフェなど、様々な場所で試着販売会をしてきた。その一環で今回は山脇さんが、三崎の「本と屯」でインディゴ染め体験と試着会を開催するということで、遊びに行った。

ゴールデンウイークということもあり、観光地の三崎には沢山の人が訪れていた。とはいえ、岡山デニムは三崎土産ではないし、ふらっと通りかかった観光客に売れるのだろうか、と正直心配だった。

しかしそれは杞憂に終わった。通り掛かる人たちが、ふと足を止めてデニムを手に取り、そして履いてみたいと言いだすのだ。山脇さんは、程よく近い距離で「よかったらそこの小上がりで履いてみてください」とか「鏡こちらです」とか言いながら、多いときは同時に4~5グループを接客する。

photo by Misa Murata

5人ほどの男女若者グループで来て、似合うとかこっちの色がいいとか、わいわい言いながらそのうちの二人が買っていったり、ある人はあれこれ履いて悩みながらも二本買って行ったりした。デニムは基本的に受注生産なので、好きな型とサイズを決めたら、オンラインストアから決済してもらう形だ。スマートフォンの操作をしてもらいながら、適度に近い距離感のまま、少しずつデニムのストーリーを語る。

「デニム産地の児島のどこどこの工場で〜とかいうような客観的な生産背景ではなく、自分らこみで主観的に話すようにしてるかな。なんでこの製品が生まれたのかとか、デニムに込めた思いとか、工場の技術のここに感動してとか。いつも、そのストーリーの中の登場人物たちが嬉しいと思ってくれるかっていうのを考える。そうじゃないとストーリーが消費されてしまう」(山脇さん)

最近ではD2Cブランドも増え、「ストーリー疲れ」などと、ものが作られた背景などを押し付けがましく説明されるのに消費者が飽き始めているといった議論もある。それは、自分が感覚的に感じる「モノそのものの良さ」よりも先に、頭でインプットする「ストーリーという情報」が入ってきてしまっているからだと思う。”〇〇産の肉”、”××さんが作った器”、など、それは結局そのモノがとてもいいと思った後に知りたい情報であって、最初からくどくど語られるとその情報に左右されてしまい、結局それが自分にとってどうなのかという感覚的な判断が鈍る。それが疲れの原因なのかもしれない。

見た目でピンときたお客さんが、まず履いてみてものの良さを知る。その後、きちんとその背景を知っていけるように語り手がいる。論理的に説明し難いのだが、エブリデニムの販売手法はこの導線設計が絶妙な塩梅なのだと思う。

人と人を引き寄せるデニムの普遍性と引力

「EVERY DENIM」は、こうやって作り手側も買い手側もどちらも良い意味で「巻き込まれてしまう」力を持っている。その引力の源は、他ならぬ、兄弟のコンビ性と人柄にある。

実兄弟ながら、島田さんが母方の養子になった関係で名字の違う二人は、お互いを「山脇」「島田」と名字で呼び合う。一瞬不思議な感覚に陥るし、距離があるのかとも勘違いするが、どこか漫才コンビのようで、むしろものすごく近い距離感なのだと知る。もちろん、兄弟らしく喧嘩もするそうなのだが、二人を見ていると不思議なほど仲がいい。

二人は、イベントや打ち合わせなど一緒に行動することも多いが、基本的な拠点は、デニム工場とのやりとりを担当する島田さんは岡山、販売やPRを担当する山脇さんは東京と、それぞれ離れて暮らす。それでも、二人はまるで恋人かのように、特に用件がなくとも、毎日のように電話で話すと言う。さぞ小さい頃から仲が良かったのだろうと思いきや、中高時代はほとんど口もかわさないほどすれ違いの期間があったそうだ。

「山脇は私立の中高一貫校に進学して、僕は公立中で。全国大会出るくらい本気で陸上をしてた。でも高校では辛い練習に疲れて、部活を辞めて家でずっとテレビを見てるようなやつだった。逆に山脇は遅くまで部活をして帰ってくるので、同じ家に住んでいてもほとんど話さなかった。岡山大学入って、急に意識高くなった僕が、起業家育成のプログラムに参加したり、デニム産地をまわり始めてからかな、話すようになったのって」(島田さん)

「そう、空白の期間を取り戻すように、めちゃめちゃ話して。急激に仲を取り戻したんよね(笑)小さい頃からデニムは好きだったし、島田がデニム工場に出入りしているのが面白そうだったから、岡山に遊びに行って、関わるようになっていって」(山脇さん)

それを聞いて納得した。「EVERY DENIM」は、世界で一番近い関係でありながら離れてしまった兄弟の心の距離をもう一度近づけた「デニム」という存在、その引力が起点となっていたのだ。だから彼らは、デニムという存在が持つ、人と人を繋ぐ引力を心から信じている。

作る人と着る人、ブランドとそのコミュニティ、全国を旅して出会った生産者の人々、そういった人々が「EVERY DENIM」を中心として巻き込まれていくのは、そういうことだったのだ。

昨年の春からスタートして約1年かけて47都道府県を旅してきた二人は、その集大成として本日8月21日から新宿 伊勢丹での企画展「47都道府県旅の終着展」を開催。新商品「Spoke」の発表や様々なゲストを招いたトークを行う。

さらに、9月からは岡山県の児島に、販売・発信の拠点として「DENIM HOSTEL float(デニムホステル フロート)」をオープンする。現在そのために1000万目標のクラウドファンディングに挑戦中だ。

「47都道府県回ってきて、たくさんの人達がその地域の魅力を教えてくれた。今度は自分たちが岡山で人を迎える側になるので。瀬戸内の魅力を伝えつつ、来てくれた人に楽しんでもらえるような場所にしたい。特定の地域に根ざして活動することは生きがいを感じますね」(山脇さん)

彼らにとってデニムは、着飾るためのファッションや、機能性としての衣類、ましてや儲けるための手段なんかではない。「引力」である。このことは、様々なファッションブランドにとって、サステナブルでシンプルな経営のための、ひとつのヒントになるのではないかと思う。彼らの挑戦がどうなっていくのか、これからも楽しみでならない。