仕事は「ジャーマネ」。下から支えて個を輝かせる。

学生時代、学園祭やサークルで「チームTシャツ」を着たことがある人は多いだろう。大勢でおそろいのTシャツを着るのには理由がある。所属の目印、一体感。ただ一枚同じ服を着ているだけなのに、着るだけで不思議と所属意識が生まれる。

東京・五反田の駅周辺では、ある「チームTシャツ」を頻繁に目にする。颯爽と飛ぶツバメが胸に描くロゴは“freee”。

「Tシャツを着ることで、私たちが家族であるかのような感覚が芽生えるんです」と笑顔で語る野澤氏の胸にも、もちろんツバメが飛んでいる。

「一時期はfreeeTシャツは365日着ていたこともあるんです」と話す野澤氏。Tシャツというユニークな文化があるように、人事労務という野澤氏の仕事にも、組織と社員に対する思いから生まれたユニークな名前がつけられていた。

「私はCMSO(Chief Member Success Officer)として、『メンバーサクセスチーム』を管轄しています。といわれてもわかりませんよね。freeeでは『人事労務部門』を『メンバーサクセスチーム』という名前で呼んでいるんです。この呼び方の根底には、『メンバー一人ひとりの成長と成功のために会社がある』『入社から卒業(退社)まで、社員の成長をサポートしたい』という思いが込められています」

採用グループが新しいメンバーをfreeeの一員として迎え、メンバーサクセスチームが社員育成や制度設計を考えて実行することで社員をサポートしているという。

「たとえ、freeeを去った後も『freeeにいてよかった』とメンバーが思える組織でありたい。そのミッションのもとメンバーサクセスチームをまとめるのが私の仕事です」

通常、会社組織は経営層やマネージャーが社員たちを引っ張るため、彼らを頂点とした三角形の組織となる。しかし野澤氏は、マネジメントの立場から見たfreeeという組織についてこう述べる。

マネージャーが下から社員を支える逆三角形の組織を作ろうと心がけています。というのも、マーケットで最も活躍し輝くべきは社員であって、マネジメントの仕事は、どうしたら彼らをもっと輝かせられるかを考え実行することだから。それをわかりやすく表すため、私は自分の仕事を『マネージャー』ではなく『ジャーマネ』と呼んでいます」

「ジャーマネ」とは、芸能界でいわゆるマネージャーを指す。彼らは、タレントが、どのようなパフォーマンスを出せば良いか、どこであれば強みを活かせるかなどを考え成功をサポートする。野澤氏は、freeeではトップで指揮を執る「マネージャー」ではなく、メンバーの成功をサポートする「ジャーマネ」であるべきだと考える。これは、まさにメンバーサクセスを体現する言葉だろう。freeeが社員の成功を大切にするカルチャーは、マネジメント層の社員に対する時間の使い方にもあらわれている。

「freeeでは、1on1という一緒に働くメンバー一人ひとりと週に一度対面で話す機会を設けています。成長の方向性や、その時々のコンディションを随時アップデートしてもらえる状況を用意するためです。加えて、メンバーのアウトプットに対して4半期に一度は複数のジャーマネからの意見を入れたフィードバックも用意します。ジャーマネがメンバーに投資する時間はかなりのものですね」

「着る文化」から生まれる、ミッションへの共感

おそろいのfreeeTシャツも社員に対する投資のひとつだ。毎年次々とカラーバリエーションが増え、ロゴデザインは2種類、半袖と長袖、丸首とVネックが用意されている。また大人用のみではなく、キッズサイズやロンパースなど、様々な種類が取り揃えられているという。しかもこれらのTシャツは、freeeで働くメンバーならば誰でも無料で手にできる。

「はじめは特に強い動機があったわけではありませんでした。周囲のスタートアップが作っていたこともあり、なんとなく着ていることで社内に一体感が生まれるのではないかと感じたからでした。ただ、代表の佐々木がfreeeTシャツを着てメディアに露出したことをきっかけに社内でも少しずつ着るメンバーが増え始めました。そのうち『Vネックがほしい』『ジャケットを着たときにロゴが見えるデザインが良い』といった要望が出るようになって。ニーズに応えているとバリエーションが増え続け、sitateruで製作するようになりました」

いまではかなりの社員が日常的に愛用しているTシャツだが、あくまで自然発生的に広がってきたと野澤氏は振り返る。ただ、Tシャツを着ることの価値は、野澤氏自身が身をもって感じている。というのも野澤氏は、はじめは恥ずかしくてTシャツを着ることがなかったという。しかし、ある日試しにTシャツで出社したところ、メンバーたちからは意外な反応が返ってきた。

「嬉しそうに『着てるね!』と声をかけられるんです。しかも、一日中、至るところで(笑)。すると『Tシャツを着るだけでこんなに喜んでもらえるのか』と嬉しくなってくるんです。それから試しに365日毎日着続けてみようと思い立ち、今では週末も着るようになりました」

はじめは試しに…という位の気持ちだったというが、1年も着るとすっかりそのスタイルがなじみ、朝服を選ぶとき「今日は何色にしようか」と考えるようになっていったという。とはいえ、全社員が着ているわけではない。Tシャツを着ることの意味や大切さを理解する一方で、強制はしないことの重要性も野澤氏は考えている。

「もちろん、Tシャツを着ない人もいます。服装は個々人の自由ですし、その多様性は尊重したいので、着ることを強制はしません。興味を持ってくれたら、着たいと思ったらでいい。ただ、着たいと思われるようにちゃんとした生地でつくったり、バリエーションを用意するなどの努力はしています」

「freeeTシャツを着ることは演出のひとつでもある」と野澤氏は語る。Tシャツを着ることによって生まれる一体感は、企業がひとつの「家族」であることをわかりやすく表す意味があると考えるからだ。

「Tシャツを着ることで、『自分はfreeeの人間だ』という意識を強く持つ。それが、ミッションへの共感を強め、仕事へのモチベーションにも繋がるのではないかと感じています。強い組織は、全員が同じ目標に向かい行動できるいわば家族のようなもの。Tシャツは、freeeがひとつの大きな家族として、同じ目標に歩んでいける一助になると信じています」

多くの人がTシャツによる一体感を心地よく感じているのか、社内では既存のもの以外にも、さまざまなTシャツを作るユニークなカルチャーまで生まれている。

「先日は、事業部長が『丸くなるな、星になれ』と何かの機会に発言したのをきっかけにその言葉を入れたTシャツが作られていました(笑)。ほかにもセールスチームのメンバーは、お客様のサービス離脱率を下げるという目標を立てて“I’ll never let you go.”と書いたTシャツを作っていましたね。社内で新しいカルチャーが生まれて、それを多くのメンバーが楽しんでいるのは、freeeならではだと思います」

新たな環境に飛び込み、カルチャーに馴染める人材が必要

時間もお金も、社員に対する投資を惜しまないfreee。2012年の創業開始以来、「まずは人ありき」姿勢は変わらない。この姿勢はfreeeが挑むべきマーケットの難易度にも関係する。

「会計という長い歴史のあるマーケットを切り崩すことは容易ではありません。日々良いプロダクトを作り、良いコミュニケーションを社会ととり続けなければいけない。そのためには、メンバーに良い仕事をしてもらう必要があり、常に高いモチベーションで働いてもらいたい。だからこそ、社員が輝ける環境に全力で投資をすべきだと考えているのです」」

現在、組織は毎年100人以上のペースで拡大しているという。多様なメンバーが加わる環境において、Tシャツは新たなメンバーがfreeeに馴染むためにも役立っているという。

「ハイスピードで組織が大きくなっていく中で、今後のメンバーサクセスチームの課題は、freeeのカルチャーを全員に浸透させること。Tシャツは一体感を生むこともあり、カルチャーを自然とメンバーに浸透させるひとつの手段になるのではないかと期待しています」

2018年は過去最多27名の新卒を迎え、創業6年目を迎えるfreee。きっと今年も新たなfreeeTシャツが生まれるのだろう。freeeのTシャツ文化のように、急成長する組織にとって「衣服」というコミュニケーションツールが活用される事例は、今後増えてくるのかもしれない。