「アマナが本社を置く天王洲はかつて倉庫地帯で、当時は交通の便も悪く、なかなか来ていただくにはハードルがありました。だからこそ会社を訪れてくれるゲストの方をもてなそうという思いで30年ほど前からエスプレッソマシーンを導入し、美味しいコーヒーを提供していたという背景があります。」(同社広報)

こうした文化の中で2017年10月、新たに「IMA cafe」がオープンした。同社発行のアートフォト雑誌「IMA」の企画展を行うギャラリーと併設したカフェだ。カフェを監修するのは同社の正社員ながら社内唯一の“コーヒー専業スタッフ”中川亮太氏で、日本に320人(2018年8月現在)しかいないアドバンスド・コーヒーマイスターの資格を持つコーヒーのプロだ。

アマナ コーヒークリエイター/中川亮太氏。「IMA cafe」をはじめ、社内のオフィスで提供されるコーヒーの監修を手掛ける。8、9月は長野県御代田町で開催された同社共催の「浅間国際フォトフェスティバル(https://asamaphotofes.jp/)」にカフェを出店していたため、長野と東京を往復する日々を過ごした

コミュニケーションのために、手作業を減らす

「このカフェは当社を訪れるゲストにとって玄関口のような場所。コーヒーを通じてコミュニケーションを図り、アマナという会社の世界観を伝えることが目的です。アマナは『ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする。』というコーポレートミッションを掲げていますが、アマナが得意とする視覚に加えて、ここでは嗅覚・味覚を刺激することができるんです。」(中川氏)

中川氏にとってコーヒーはメディアであり、そのメディアを通じてアマナという会社の思想を伝えることが本来の仕事。だからこそ、ゲストとの会話を大切にしたいという思いがあり、自動ドリップマシーンを導入したのだという。

「ハンドドリップではどうしても手元に集中してしまい、ゲストの顔を見ることができません。だからといって、コーヒーの質は絶対に落としたくない。その結果いきついたのがこのマシーンでした。」(中川氏)

店舗設計もマシーンの導入が前提にあったため、マシーンが美しく見えることを目指して、まるで高級な寿司屋のような長いカウンターが生まれたのだという。もちろん店頭でハンドドリップはしない。椅子がないのも、中川氏が机を挟んだコミュニケーションを重要視した結果だ。

職人の技を忠実に再現するテクノロジー

自動ドリップマシーンはアメリカのコーヒー好きが立ち上げたベンチャー企業「Poursteady」のもの。世界でも数百台しかないらしく、日本では「IMA cafe」が初の導入となった。自動といっても、豆の計量やグラインド、提供前の味見には人の手が欠かせない、いわゆるセミオートマチック・マシーンだ。

中川氏のハンドドリップの動きを細かく数値化し、プログラミングに組み込むことで、職人の味を完全に再現。サーバーはニューヨークにあるが、天候や季節、豆の状態に合わせた設定の微調整も日本からウェブ上でおこなうため、常に中川氏と同じベストパフォーマンスを表現できるのだという。

マシーンには5つの抽出スポットがあって、理論上は5つのコーヒーを同時進行で淹れることができる。しかし、中川氏が蒸らしの時間などの関係で同時に2〜3つしか淹れられないのと同様、マシーンもプログラミングのタイミングを計算した結果2〜3カ所の抽出スポットしか使わないのだそう。実際にマシーンを動かしてもらうと、横移動のスピードはいかにもマシーンだが、ひとつひとつのドリップは職人技そのものだ。

マシーンを使ったメニューは非常にシンプルで、極端に雑味を除くことで爽やかな口当たりを実現したシングルオリジンによるクリーンコーヒーと季節ごとに豆の配合を調整するブレンドコーヒー、そしてそれぞれの豆を使った水出しのアイスコーヒー。それだけだ。

それでも、コーヒーごとの背景を教えてくれたり、アイスコーヒーを楽しんだ後に特製シロップを使って味わいを変化させたり、ある種のエンターテインメント性も忘れない。中川氏の話術もあって、どんどんコーヒーの世界へ引き込まれていく。

「ゲストの方の話を聞いて提供するメニューを提案することもあります。コーヒーには香りによるアロマテラピー効果、味わいによる味覚への刺激、さらにコーヒーに含まれる成分による体内への作用があります。リラックス効果と脳への刺激で新しい閃きをもたらす、アマナにお越しいただくゲストが携わるようなクリエイティブな仕事にはぴったりの飲み物なんです。」(中川氏)

アナログな職人技とデジタルテクノロジーの相乗効果

テクノロジーの進化、特にAI技術の発展によって、あらゆる仕事が自動化されていく時代。アパレルをはじめ、製造小売業においてもその流れを止めることはできない。実際に技術を持つ職人にとって、テクノロジーは脅威ではないのだろうか。

「もちろん、マシーンに対してはめっちゃくちゃ嫉妬します。時にはハンドドリップと飲み比べてみて『負けている・・・』と内心穏やかじゃないことも(笑)。でも、マシーンは正確だからこそ、ある意味でいい判断基準になるんです。飲み比べることで自分の技術の改善すべきところが見つかったり、それをさらにマシーンのプログラムにインプットしたり。お互い高め合っていくことができると確信しています。」(中川氏)

たしかに、この考え方はアパレル製造においても同じかもしれない。いくら製造を自動化しても、着心地を確かめることは人間にしかできない。カスタムスーツなどの領域においてもテクノロジーが進歩し、自動採寸・パターン・製造という流れも確立されつつあるわけだが、例えば、採寸時のむくみといった人間にしか引き出せない情報もある。

「コーヒーでもアートでもアパレルでも、アナログとデジタルのバランスをとって、サポートし合うべきだということは共通しているはず。ハンドドリップも素晴らしいけど、こんなマシーンがあったら見た目でも楽しめますよね。でも、何度も言っていますが、見せかけだけのデジタルではダメで、きちんと味を担保すること。『予想は裏切るが、期待は裏切らない』ということですね。」(中川氏)