魔法化するテクノロジー

テクノロジーはその性質上、進化することでテクノロジー自身の存在感を消していく。近年はテクノロジーが十分に成熟し、テクノロジーありきではなく、その先にどのような価値を提案するかということが一層の関心を集めているように感じる。

その思考方法が最も活用されているのがデザインの世界といえるし、今回数々の作品・展示を通して、優れたデザインが鮮やかにテクノロジーの香りを消し、人の知覚や認知を利用し、現実世界のマテリアルや技術という”材料”を魔法へ料理するのを目撃した。

Soundscape (AGC旭硝子 AGC studio)

Ventura Centraleエリアは高架下の空間を利用した展示スペースがある。AGC旭硝子は、現在開発中という「音を生む」ガラスによって、空間内に自在に音を配置した展示を行った。

共振を抑えた特殊な二層のガラスに接続されたスピーカーの音を、ガラス全体が振動・増幅して音を鳴らす。コンクリートの高架下と、真っ白い砂利が敷き詰められたフロアのあいだに吊り下げられたガラス。極端に無機質な空間から、どこからともなく鳥や水の音が立体的に聞こえてくる。ガラスに取り付けられたスピーカー部は非常に小さく、そこに音の発信源があるということを認識することがない、不思議な体験だった。

Giants with Dwarf (Stephan Hürlemann / horgenglarus)

スイスの建築家・デザイナーのステファン・フューレマンによる、スイス最古の家具メーカーhorgenglarusのためのインスタレーション。巨人と小人というタイトル通り、入り口をはいるとこちらを向いた大小異形の怪物たちがお出迎えしてくれる。最も大きいもので背丈3mにもなる彼らは、100年も前の椅子とテーブルの木製部品などを用い、再構築されたものだ。

この作品はミラノデザインウィーク中の展示で審査員と一般人の投票によって選出されるミラノデザインアワードの内、独創性が評価される「ユニコーン2018」を受賞した。実際、展示会場内に入ったときの迫力が圧巻で、最初それが椅子やテーブルであることを感じない。

その姿はどこか可愛らしく、どこか恐ろしく感じ、絵本や神話でみる悪魔とかそういったものと似た畏怖の感情が想起される。100年前の伝統的な椅子を用いていることと通底する心理的距離感があるのかもしれない。

あえて無骨でプリミティブな表現方法を取ることで、スイス最古の家具メーカーという面を浮き彫りにする独創的な発想が伺える。

The Diner (David  Rockwell / Surface / 2×4)


by Michele De Candia

アメリカのデザイン雑誌「Surface」の25周年を記念し、建築家デイヴィッド・ロックウェルとデザインスタジオ2×4がコラボレーションし、会期中限定のレストランを開業した。訪れた客にアメリカの西海岸から東海岸までを横断させるというコンセプトで、内装が4つのテーマに分割されている。デイヴィッド・ロックウェルによれば、レストランは故郷への思慕を起こさせると同時に、家そのものではなく、様々な人間模様と出会う場だったという。

世界中から人が集まるミラノデザインウィークという場でも、様々な国籍・人種の人々が、このアメリカ東西を圧縮したレストランで食事や談笑をして時間を過ごしていた。観客とのインタラクションが評価されるミラノデザインアワード「ベストエンゲージメント」を受賞。

https://www.surfacemag.com/the-diner/

HARU stuck-on design; bring color into your life (株式会社ニトムズ)

「色を貼る」という発想で空間をクリエーションする貼ってはがせるテープブランド「HARU stuck-on design;」の展示。基礎技術となる粘着技術を応用し、壁面などに装飾を行うことができる商品。マスキングテープと近いものを想起するが、テープ幅が大きいものを中心に広い空間で展示することで体感距離が倒錯するような感覚がある。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000236.000001499.html

fifth ring (AUDI)

AUDIのロゴである連なった4つのリングになぞらえて、5つ目のリングと題した展示。周囲を囲む建造物の境界内に浮遊する、中央の巨大なリングが人間の完璧へあくなき努力を表しているとのこと。

立ち上る霧に包まれる幻想的な空間は心地よく、空の開口と相まって雲の上を歩いているかのよう。コンセプトカーの展示やカーデザイナーによるライブスケッチがあり、AUDIの世界観に浸らせるという明確な目的を持った展示だ。

https://www.audi-mediacenter.com/en/press-releases/audi-presents-installation-fifth-ring-at-milan-design-week-10141

TRANSITIONS (Panasonic)

創業100周年を迎えたPanasonicが、ミラノデザインウィークを機に遷移(TRANSITIONS)をテーマに活動を開始する。トークイベントなどを含めた活動で、写真はその一部となるインスタレーション「Air Inventions」。

ミラノの街中で、最も美しく澄んだ空間の創出を目的とし、エアドーム内で「空気」を展示した。空気を浄化するデバイス技術「ナノイーX」と、高圧の圧縮空気を用いて水を微細化する「シルキーファインミスト」、超高輝度レーザー光源プロジェクターを用いて一連の映像を中心とした抽象度の高い作品だ。ややテクノロジーに起因する部分が色濃い印象を受ける。

技術の実装が評価されるミラノデザインアワード「ベストテクノロジー」を受賞。Panasonicは2017年に同「ベストストーリーテリング」、2016年に同「ピープルズチョイス」を受賞している。

https://panasonic.co.jp/design/milan-design-week2018/

Open Sky (COS / Phillip K. Smith III)

H&MグループのハイブランドCOSが、アメリカのアーティスト、フィリップ・K・スミスIIIとコラボレーションを行った展示。COSは例年、奇をてらって注目を集めるのではなく、純粋に心地よい空間を作り出すことを目的として、最小限のギミックで多くの人々を魅了する展示を心がけてきた。

フィリップ・K・スミスIIIは砂漠の小屋の外壁を鏡張りにした作品などが有名。今回も空や建物、鑑賞者などの周囲の環境を鏡によって物理的に空間内に配置し、16世紀に建てられたロンバルディア州庁舎という変わらず存在し続けるものと、変化するものを取り合わせる作品。

https://www.cosstores.com/jp/project/salone2018/

Atelier Swarovski (Swarovski)

Swarovskiはジョン・ポーソン、パトリシア・ウルキオラ、nendo、トルド・ボーンチエ、マルジャン・ヴァン・オーベルの6名のデザイナーとコラボレーションし、Atelier Swarovski、Swarovski Crystal Palaceのコレクションを展示した。

オーストリアで創業した世界的クリスタルメーカーであるSwarovskiが起用するデザイナーは、オランダ、スペイン、イギリス、日本など国際色豊かで表現する方法がそれぞれ異なるが、クリスタルという素材とカッティングの技術という共通部分によって普遍的な魅力を出している。

日本に拠点を持つデザインオフィス「nendo」がこの展示のイメージビジュアルになっていて、入り口正面にインタビュー映像が流れていた。

精巧にカットされたクリスタルを通して花が見える。クリスタルそのものを見せるのではなく、その先に見えるものを映し出すことでクリスタルの透明度、カッティングの美しさなどが感じられる。

全体を通してただただ佇まいが美しい展示。

Sprout (mt)

マスキングテープでおなじみのmt(カモ井加工紙株式会社)が、「SPROUT(芽/発芽)」をテーマに展示を行った。上記写真では、イタリアを代表する車であるフィアットに、実際にマスキングテープを施している。

入って正面、1階の展示では、天井から吊り下げられた無数のマスキングテープが展示されている。

ひとしきり見た後に地下に降りていくと今度は地面から「発芽」するように垂直に伸びるマスキングテープが。この鑑賞者を驚かせるストーリーが印象深い。どのようにしてマスキングテープが垂直に伸びていたかはご想像におまかせしたい。

nendo : forms of movement (nendo)

佐藤オオキ率いるデザインオフィス「nendo」。東京とミラノにオフィスを構え、ミラノデザインウィークでは毎年展示を行い、高い評価と話題を集めている。今年はトルトーナエリアのスーパースタジオ内で「forms of movement」と題した個展を発表した。

世界中の企業とコラボレーションを行っている彼らだが、今回は日本企業が持つ技術や素材を用いて、それぞれ新たなコンセプトを持つ10の商品が展示された。入場口には長い列ができており、おそらく今年最も観客動員した展示ではないかと思われる盛況ぶり。

会場のファサードは黒い一枚布を貼って作られており、印刷でサインがあてられていた。中に入ると全面が真っ黒で薄暗い会場内を、手書きスケッチによるサインに案内され、10個の展示を順番に回っていく。

それぞれ、3Dプリンターでのプロトタイプが無数に展示され、細かい検証のあとが伺える。これほど大きい展示会場で個展を開くためのプロダクトとは思えないほど小さい製品と細やかなアイデア。様々な方法で嵌合するファスナー。白いせいか、骨格模型のようにも見える。普段よく使っているファスナーが、どこか違う。日常に小さな「!」を見出す「nendo」らしい展示。

落とす場所や方向でさまざまな時間の経過を告げる砂時計。パーティングラインがなく美しい塊。

https://fuorisalone.it/2018/it/eventi/321/Nendo-forms-of-movement

FICTIONALITY (YOY)

東京を拠点とし、国際的に活動を行うデザインスタジオYOY。写真は、真っ白いキャンバスに光の絵の具で描かれたような模様が浮かび上がる照明。点灯する前は真っ白い何も描かれていないようなキャンバスに見える。

http://www.superdesignshow.com/yoy/

Hidden Senses (SONY)

SONYのミラノデザインウィークへの出展は2010年以来8年ぶり。SONYは自社のデザイン室を持つが、会場にはそのスタッフが待機しており、その場で鑑賞者への解説とフィードバックを受け付けるなど、相当の力の入れようだ。

ソニーがデザインに並々ならぬこだわりがあることはよく知られるところだが、10年ぶりのミラノデザインウィークとあって訪れる来場者の期待と注目度が高まっているのを感じた。

写真は、目の前に立つ鑑賞者の影が映像に干渉して模様を作り出す作品。他にも音響やプロジェクターを活用した作品が並ぶ。静止画と言葉では挙動が伝わりづらいため、下記動画やソニーのウェブサイトをご覧いただきたい。

水の存在を水を使わずに感じることができる作品。ピッチャーの中には勿論水は入っていない。注ぐと水面がゆらめいてテーブルに屈折した光が写っているかのよう。音はピッチャー本体から手元に伝わり、音の振動が実にリアリティを持った水の実態を感じさせる。

著者個人的に、今回のミラノデザインウィークを通して、最も新鮮な驚きと感動を与えてくれた展示がこのソニーの展示であった。

過去多数のインタラクティブアートやインスタレーションを鑑賞してきたが、テクノロジーがここまで滑らかに、魔法のように挙動と溶け合っているのを体感したことはなかった。この展示は、遊び心で人々を魅了したことが評価されるミラノデザインアワード「ベストプレイフルネス」を受賞した。

https://www.sony.co.jp/SonyInfo/design/info/mdw2018/index.html?s_tc=sd_ev007md01_twtr

デザインとテクノロジーの関係が親密になる

デザインは、潜在・顕在問わず、ある課題に対して、現実的かつ効果的な解決策を提示することだということができる。

そのため、ミラノデザインウィークをテクノロジーやイノベーションという切り口で語ることはそもそも無粋なのであるが、企業側の課題設定によってはテクノロジーやイノベーションに切迫した意欲的な展示があるように思う。そのとき、デザインがこれまで以上にテクノロジーの輝きを増すための研磨剤の役割となってきているのだろう。

過去、テクノロジーの進化は、そのままイノベーションであった。テクノロジーの進化がイノベーションをもたらし多くの人を魅了したが、いまはどうだろうか。世界的な企業群を相手に、最先端の課題を解決するデザイナーたちの提示するものが、驚くほどに日常性を帯びている。

技術力を見せるという意図が消失し、もはや技術的側面を隠しているような気さえする。テクノロジーを制御するという意識的な行動が省略され、いざ人間の行為そのものに焦点が当てられるようになっているのではないだろうか。

その解を提示してみるというのがミラノデザインウィークにおけるデザイナーの役割であるのかもしれない。