「アポロ11号の月面着陸から今年で50年。そんな記念すべき年に商品が完成したことをとても嬉しく思います。これは発酵によって作られた世界で初めてのアウトドアプロダクトになるのです。」(関山和秀スパイバー代表)

発表会でスパイバーの関山和秀・代表はこう語った。この日、原宿にある「ザ・ノース・フェイス 」期間店ではファーストプロダクトとなるTシャツがローンチされたのだ。“地球の均衡”を意味するプラネタリー・エクイリブリアム ティー(PLANETARY EQUILIBRIUM TEE)”名付けられたTシャツは250枚限定の抽選販売で、すでに予約完売。植物由来のセルロースである“コットン”と両社が共同開発した微生物由来のタンパク質“ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)”から生まれた「生態系と同じバランス」の洋服で、持続可能な社会へ向けたスパイバーの挑戦だ。

4年かかった“ムーンパーカ”の正式発売が決定

発表会の目玉は、ダウンジャケット“ムーンパーカ(MOON PARKA)”の発売だ。15年の提携当初からローンチを目指していた同社のターニングポイントとも呼べる用品で、「困難だが実現すれば巨大なインパクトをもたらす壮大な挑戦」という意味で使われる「Moonshot(ムーンショット)」に由来する。

価格は15万円。50着限定で29日に予約を開始し、発売は渋谷パルコにできる新業態「THE NORTH FACE LAB」にて12月を計画する。発売までの期間は東京や札幌、仙台、福岡、大阪で商品に触れられるインスタレーションを実施予定だ。イベントに登壇したゴールドウインの渡辺貴生・副社長も、現在の心境をこう明かした。

「4年間かかりました。あっという間の気もしますが、皆様のご協力あって、数々の苦悩を乗り越えてこれたことに感謝します。われわれのモノ作りの基本は、自然にある原理を生かして新しい機能・価値を作ること。社会に対するインパクトをゼロに近づけたいという思いで40年近くやってきましたが、この製品はまさにそれを実現してくれるのではないでしょうか」(渡辺貴生ゴールドウイン副社長)

渡辺副社長いわく“ムーンパーカ”は限りなくシンプルながらも、考えぬかれたデザインだ。アウトドアとしての完全防水・透湿機能もTHE NORTH FACEの最高峰ライン「SUMMIT SERIES」と同等で、中綿には900 fill powerのクリーンダウンを使用。これまで開発してきたテクノロジーを搭載した最高精度のプロダクトといっても過言ではない。

サステナビリティという大きな課題に対して、大きな第一歩を踏み出した

“ムーンパーカ”の開発着手から発売まで4年がかかった背景には「スーパーコントラクション(超収縮)」という難題があった。同社が開発した“クモノス(QMONOS)”は水に濡れると縮んでしまう「スーパーコントラクション」という特性をもつ。アウトドア製品、しかもアウターが雨に濡れただけで縮んでしまうのでは話にならないということで、遺伝子解析を重ね、そのメカニズムを解明してきた。

その結果、クモの糸の性質そのままに「スーパーコントラクション」だけを90%近く排除する遺伝子配列を同定。安定した素材生産ができる効率的な遺伝子設計を重ねたことで、ようやくたどり着いたのが今回のための新素材“ブリュード・プロテイン”だった。

「これまでいくつもの試作を経たことで、これほど時間がかかってしまいました。“ムーンパーカ”では、先立ってローンチしたTシャツとは全く異なる機能が求められるため、抜本的にアミノ酸配列を見直す必要があったんです。」(関山代表)

このために取得・出願した特許数は8月末次点で220。現在も日々改良を重ね、新たな技術を習得し続けているという。もちろん、彼らの野望はまだまだ続いていく。現在タイに量産のための工場を建設中で、21年には稼働予定。量産に向けた商品改良を進めているほか、すでにファーフリーファーをはじめ、自動車業界や建築資材など、あらゆる分野での活用を視野に研究開発を進めている。量産となれば価格も抑えられるため、さらなる商業化が見えてくるという。

「私はこの研究を学生時代から続けてきました。根底にあるのは、環境問題が平和に直結しているという思いです。サステナビリティという言葉が意味するのは『人がより良い状態で生きていける社会』。だから、私にとってこの研究開発は平和のための活動。挑戦はようやく始まったばかりです」(関山代表)

最後に関山・代表はそう熱く語った。サステナビリティという大きな課題に対してアパレル業界が提示できる一つの回答がこの“ブリュード・プロテイン”だとすれば、数十年後に振り返ったとき、今回の商業化は、ゴールドウインとスパイバーが踏み出した「人類にとっての偉大な一歩」となるのかもしれない。