日本のファッション業界にはテックの要素が足りていない

―『OR NOT』を皮切りに、今後はもっと一次流通と二次流通の融合がされていくのかなと思うのですが、そこに向けてアパレル業界としてはどういうことをしていけばいいと思いますか。

小木:自分が学んだのは日本のセレクトショップ業界なので、そこに関して言えば、2000年代の頭くらいまで路面店ビジネスが主流でした。でも、2000年代にファッションモールに出店する店が増え、ファッションに詳しくないディベロッパーに対して自分たちがやっていることを説明する必要が出てきたんです。そういった事が重なり、プレビューとかシーズン毎のテーマを決めるという動きが生まれました。

それまではもっと謎めいたもの、一部の人だけが知っている面白さがファッションだったんですが、徐々に分かりやすいものになり、ファッション本来の面白さのあり方が少しずつ変わってきていると思います。

また、日本では、サステナビリティという考え方の普及が遅いように感じます。海外だとそれが一般的になっているし、今の日本の若い人たちもサステナブルであることがクールで、そういうブランドが格好いいって思っているんです。でも、それ以上の世代の人たちははまだその感覚に気が付けていない人も多いと思うんですよね。それと、ITとの掛け合わせが決定的に足りない。

―海外の方が進んでいるわけですね。

小木:HIGHSNOBIETYの創業者であるデイビッド・フィッシャーに取材したことがあるんですけど、日本のウェブサイトはテックの要素が圧倒的に足りないと言っていました。たとえば、HIGHSNOBIETYは、インスタストーリーのスワイプアップの技術を自分たちのwebサイトで開発して導入しています。

―技術的な部分も足りていないと。 
 
小木:はい。日本ではファッションはこうあるべきだというこだわりが強い。それはそれで大切なことだと思うんですが、例えば日本のウェブマガジンは編集者上がりの方が多く、ITみたいな新しい流れが出てきたときに「俺わかんないからよろしく」っていう人が多いというのを聞きますし。

―IT側からはどのように見えていますか?

増汐:こういうカルチャーはある意味美しいと思っていますし、大切なことだと私も思います。ただ、変わらないといけない部分は絶対ある。小木さんは珍しいくらい、変わっていかないとという意識が高い方だなと思います。日本には、海外の人たちと話をしている人がまだまだ少ないのかな。小木さんはどうして海外で評価され始めたたんですか?

小木:僕はストリートフォトグラファーがきっかけですね。2008年くらいのある日、友達に「(ストリートスナップで有名な)トミー・トンが撮ってるJAK & JIL(スナップサイト)に出てたぞ」って言われて。何でだろうと思ったら、ファッションウィークに参加していた時の自分がスナップサイトに出てたんです。そのうちそういったサイトが重要視されるようになり、デザイナーのムードボード(コレクション参考イメージ)に載るようにまでなっていったんです。それで、知らないうちに世界の人が僕を見てくれていて覚えられていった、というのが始まりだと思います。

あと、HIGHSNOBIETYやHYPEBEASTの本国の人たちと早くからコミュニケーションをとっていました。日本では“転載サイト”みたいに言われていたけど、絶対にこれから需要があると思っていて、自分達で海外にプレスリリースを送っていたんですよね。だから、これからサステナビリティを考えないと格好よくないということは、肌で感じています。

増汐:前、ダンボールの話があったじゃないですか。ネット通販がこれだけ普及すると世の中に不要な段ボールが溢れてる。商品を発送する時にダンボールの廃材をつなぎ合わせて使った方が、企業としてのメッセージや世界観が伝わるはずだと。その話を小木さんからもらって「たしかに!」と思いました。世界基準で見たらこれがクールですよと言われて。こういうのって世界を知っているからこそのアイデアだと思うんです。

若手のカルチャーをフックアップするべき

―アパレル業界の人にしても、物の売り方・買い方が変わる中で、実際悩んでいることはたくさんあると思うんですよね。うまく融合すれば、もっとファッション業界も面白くなると思うのですが。

小木:そうですね。もっと若者のカルチャーが根付いていくといいのかもしれません。(アーティストの)VERDY(ヴェルディ)くんの出現とかは僕はすごくいいことだと思っています。アメリカだと若い子たちがどんどん出てきて、ラッパーとかも次々面白い子たちが出てくるんですよ。

ヴァージル・アブローはルイヴィトンと仕事をしていても、チームでチャットグループを作って若い人たちにも「面白い事があれば連絡してくれ」と伝えているんです。彼と働いている人たちは、自分も参加できて楽しいと言っているようです。本来だったらデザイナーは、生地の展示会にいったりデザインに磨きをかけたりするのでしょうが、ヴァージルはアーティスティック・ディレクターとして世界中を旅してDJをして、若い人たちに音楽を通じてカルチャーを伝えて、面白い人がいたらすぐコラボレーションしようってピックアップして。世界中に仲間を作って、ファッションのトレンドを作っているんです。

―そういう若い人たちの文化は、日本はまだ全然できていないと思いますか?

小木:そうですね。日本だけで見ると少子化ですし、その逆をいってしまっている。だから、VERDYくんのように世界中に友達を作って発信しているのはすごく良いことだと思います。彼の登場からちょっと変わってきてる気がします。