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サービスデザインにはCSだけでなくES(Employee Satisfaction)も必要

Weareに関連して、ファッションに関する仕事もいくつか紹介しましょう。まず、日本デザインセンターおよび原デザイン研究所と協働して行った、羽田空港「POWER LOUNGE」のスタッフが着用するユニフォームのクリエイティブディレクションです。デザインは、国内外で注目されるファッションブランド「HYKE」によるもの。

羽田空港「POWER LOUNGE」のユニフォームをつくったプロジェクト。実務に沿う機能性を重視しつつ、HYKEらしさが表現されている。

実は当初のデザイン案は、完成形とは異なるものでした。しかし、実際に現場で働くスタッフの意見を聞いたところ、デザインについてさまざまな指摘があって。お辞儀をしながらお客さまを送り出すシーンが多いので、帽子は避け、動きやすいものがいい——そうした意見を取り入れながら、現場スタッフが働きやすい機能性と、お客さまに快く受け止めてもらえる見た目を両立したユニフォームをつくり上げていきました。

CSCustomer Satisfaction)だけでなく、ESEmployee Satisfaction。従業員の快適さが担保されなければ、不満が蓄積され、長く使われるものになりません。ESの重要性をあらためて認識したプロジェクトとなりました。

ビジネスやデザインの領域において、「サービスデザイン」という手法が浸透してきています。サービスデザインには、「A面」と「B面」があり、前者はいわゆるUXデザインです。ひとつのもののデザインだけでなく、全体の体験がお客さまにとって心地良いものであるかどうかを追求します。そして後者は、先ほどのESを含むビジネスとしてのデザイン。オペレーションがうまく回り、どこかにしわ寄せがこないよう設計する必要があります。

この両方を達成していなければ、持続可能なビジネスにはなりません。A面・B面の両面を意識してプロジェクトを進めていくのがサービスデザインの基本で、Takramの仕事の進め方でもあります。

誤読した瞬間に、ものやことが「その人のものになる」

また、ISSEY MIYAKEのホリデーキャンペーン「FLORIOGRAPHY」も、大きな話題になったプロジェクトのひとつです。特別なテキスタイルでできた花のコサージュを、メッセージを添えたラッピングペーパーで包むことで完成するギフトでした。

ISSEY MIYAKEの2017年のホリデーキャンペーンとして展開した、花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」

ホリデーキャンペーンはここ数年実施してきていたそうですが、2017年は各国のISSEY MIYAKEのお店で展開するとのこと、「何をつくるかから一緒に考えてほしい」とデザイナーの宮前義之さんからご相談いただきました。

宮前さんの念頭にあったのは「素材」。「スチームストレッチ」(編集部注:布にあらかじめ折り目を織り込み、そこにスチームを吹きかけると多面体のファブリックになるという仕掛けが施された、ISSEY MIYAKE独自のファブリック)を使って何かできないかと、さまざまなプリーツの試作品を見せてくれました。

提案したアイデアのひとつが、「花」でした。年齢や性別を問わず、これまでブランドに触れたことのない人もお店を覗きたくなる場を、どうつくれるか。そんな目線で考えたアイデアでした。何よりお花ならばホリデーシーズンにぴったりです。

感謝のメッセージを添えることもできるし、愛の告白でも、家族に贈ってもいい。さまざまな人に、さまざまなシチュエーションで活用してもらいたいと思いました。

FLORIOGRAPHY」も、「積極的な誤読」が起こることを狙って設計したプロジェクトのひとつです。一人ひとりの「積極的な誤読」を促すには参加してもらうのが一番。これは「手紙を書く」という行為で初めて完成するプロダクトです。

具体的には、便せんとして使えるラッピングペーパーでお花を包んで、誰かに贈る。便せんには、あらかじめいくつかのキーワードがエンボス加工で印字されているので、手書きのメッセージを書かなくても、キーワードを丸で囲うだけで思いを伝えることができます。

この「パチカ」という紙は、エンボス加工した部分が透けるので、キーワードだけが鏡文字で透けて見えます。受け手は「なんだろう?」ともらった花束を開いてみると、中からメッセージが現れるといった具合です。

一人ひとりが「積極的な誤読」を起こす。この魅力は、誤読した瞬間に、ものやことが「その人のものになる」ことです。「FLORIOGRAPHY」が一度誰かの手に渡り、メッセージの伝達に使われたら(それが僕の言う「誤読」なのですが)、それはISSEY MIYAKEのものでも、Takramのものでもなくなり、その人のものになる。

僕たちは実際、贈り手と受け手の間に生まれたさまざまな物語を目撃することになりました。あるお店に、付き合う直前と思しきカップルが来店したときのことです。彼が彼女に「FLORIOGRAPHY」をプレゼントすることになったものの、思いが募ってメッセージが書けずに頭を抱えている。先に店外に出て手紙が書き上がるのを待つ彼女の表情は、待っているのに、手紙を書いているようでした。

ただプロダクトをつくるだけではなく、それがどのように使い手のものになっていくかを目のあたりにする稀有な機会でした。プロダクトを買い求める人は、実は共犯者でもある。ISSEY MIYAKEのみなさんとTakramがつくったものに、買った人が手を加えて、誰かのもとに届ける。その関係性を再認識する機会になりました。

よいブランドが実現している「Feel First, Learn Later」

——最後に、渡邉さんのイマジネーションを引き出す、とっておきのファッションアイテムについて教えてください。

季節柄、今日は着ていませんが、「THE INOUE BROTHERS…(ザ・イノウエ・ブラザーズ)」というブランドのアルパカニットが好きなんです。南米アンデス山脈に生息しているロイヤルアルパカの毛を使っていて、ものづくりの背景には、「生産過程で地球環境に負荷をかけない」「生産者に不当な労働を強いない」「地域の伝統や技術を守る」といった信念があります。

ザ・イノウエ・ブラザーズが、そういう「エシカル」「フェアトレード」といった要素を持ったブランドであることは、「知って」はいました。ただ、ブランドを好きになったきっかけはそういうストーリーとは関係なく、ただただ、アルパカのセーターの手触りが好き、ということだったんです。それが、最近彼らの書籍が出版されて初めてブランドの詳しい背景を知り、一層ザ・イノウエ・ブラザーズが好きになりました。

ものづくりやブランドに大事なものって、Feel First, Learn Laterというプロセスなんじゃないかと思います。まずは見て触って、感じて好きになる。次に背景を学んで、さらに好きになる。特に衣服は、その典型なのではないでしょうか。

Takramも、このプロセスを大事にしたものづくりをしていきたいと思っています。多くの人にとって「見た目」は重要な情報源なので、一定の美的クオリティは必ず達成しなければなりません。生活者とブランドとの出会いの可能性を高めた上で、心から共感してくれる人をどれだけつくれるか。

ただ質が良いというだけでは、他の選択肢に埋もれて選ばれない。物語ばかりが先立ってクオリティが甘ければ、買い続けてもらうことはできない。「Feel First, Learn Later」。この両立によって初めて「良いものづくり」が生まれるのではないでしょうか。

 

【渡邉さんこだわりの一着】

この日のファッションは「ISSEY MIYAKE」と「SOMARTA」とのもの。「ファッションのことはよくわからなくて(笑)。ISSEY MIYAKEの仕事をしてから、積極的に買うようになりました。どちらもデザイナーズブランドながら、洗濯ネットに入れて自分で洗って干せるから、海外出張が多い僕に合っていると思います」(渡邉さん)。