医療、スポーツ、ゲーム…さまざまな用途で活用されるセンサー内蔵スマートアパレル

e-skin Shirtは伸縮性のある素材で作られたコンプレッションシャツ。中に伸び縮みを検出するゆがみセンサーを14個内蔵し“肘が曲がった”など人間の動きを検出する。Xenomaの強みは、素材に用いられている、「伸びる配線部分」にあるという。

「一般的に、電気の流れる配線部分は固くて伸びるものではありません。e-skinではそれが伸びる特徴を有しています。コンプレッション素材の伸縮性をそのままに、軽く、動きやすく、洗濯もできる。普段使いできるかたちでセンサーを内蔵できるのは、おそらく世界中でも我々だけだと思います」。

e-skinは現在、取材時に見せていただいた開発者向けキット(e-skin Developers Kit・以下DK)と、法人向けのカスタマイズモデルを展開している。同社がはじめにリリースしたのは開発者向けのDKだった。

「DKは開発者に対し、『これを使って、何ができますか?』というメッセージを持ったプロダクトです。仕様を決めすぎず、開発者の想像力に委ねて用途を考えてもらうように作りました。ゆえに『この用途だったらこういうものが欲しいだろう』とせず、センサーの数も足りないより多めに入れているものです」。

DKをリリースし、開発者からさまざまな用途の可能性が示唆されたほか、法人からの問い合わせが広がっていった。当初はゲームやスポーツなどを考えていたが、医療や産業機器周辺からの引き合いもあったという。

「わかりやすい例はゴルフですね。ゴルフでは、アパレルブランドから問い合わせいただき動きを検知する服を2019年発売を目指し開発しています。医療分野では、ドイツの大学病院と共同で、認知症患者さん向けのモニタリング機器として開発を進めています。認知症の患者さんは運動機能のある方ですと、リストバンド型のセンサーは外してしまう。それが服であればというご相談を頂きました」。

薄くて柔らかいエレクトロニクスをスマートアパレルに進化させる

冒頭の通り、Xenomaはもともと東大の研究室からスタートしたプロジェクトだ。はじまりは、研究室を率いる染谷隆夫教授が抱えていた“事業と研究の距離が遠い”という課題感からだったという。

「私はもともと富士フイルムで20年近く働いた後、フリーランスとして技術を活用し世の中に新しい価値を提供するような仕事に携わっていました。その頃に染谷教授から、『研究室からビジネスを作りたい』と相談をいただいたんです」。

網盛氏が参画した当時、“薄くて柔らかいエレクトロニクス”とともに研究室にあったのは“伸びるエレクトロニクス”の技術。折しも、人とインターネットをつなぐインターフェイスについて考えていたことから、これに非常に興味をそそられたという。

「この技術を生かせば、テクノロジーを自然な形で身につけることができるのではと考えたんです。私は以前から、ウェアラブルのようなデバイスを身につける姿は理想的ではないと思っていました。当時はさまざまなウェアラブルが流行っていましたが、私自身は腕時計もしないくらい体にものを身に付けることがあまり好きではない。より自然に身につける方法を考えると、服のように当たり前に身につけるものにセンサーが内蔵される方がいい。服をエレクトロニクスにし、システム化することが理想解なのではないかという仮説をもっていたんです」。

網盛氏は、元々富士フイルムで働く中で、フィルムと布の近似性から長らく衣類へ興味を抱いていた。服をエレクトロニクスにするというアイデアは自身のキャリアや経験からもいま取り組むべき領域だった。

「服はフィルムと同様、反物でパターン形成まで行っているにも関わらず、生産性がフィルムよりも大きい。加えて編んだり、模様を入れたりといった特殊な作業もできる。産業として歴史が長いので、技術が成熟しているんです。にもかかわらず、日本では国立大学にアパレルに関する専攻はほぼない。ドイツやイタリアではいまでも繊維工学専門の研究所が研究を進めているのですが、日本は取り組めていない。ここに取り組まない理由はないだろうと考えました」。

想像を超えた反響を得られたCES2016

服をエレクトロニクスにするという方向性で動き出した網盛氏は、1年半ほどは大学の中で研究に従事した後、2015年11月にスピンオフする形で会社を立ち上げる。大学で研究を重ねてきた技術を活かし、Xenomaは創業からわずか2ヶ月の間で、一気にCESに展示するためのプロトタイプを作り込んでいった。短い準備期間ながらも、満を持して出展したCES2016.反響は期待以上のものだった。

「直接展示を見られた方からの反応も上々でしたし、たまたまイギリスのメディアに取り上げてもらったことを皮切りに、CNETなどにも取り上げられ多くの人に知ってもらうことができました」。

その後開発を進め、2017年には法人向けにDKの提供を開始。同年夏には個人向けにKickstarterでクラウドファンディングを実施し約600万の出資を集めた。そこで得たオーダー・資金を元に、個人法人向けとも量産体制に入り2018年に至る。これまでに無い着心地の良いスマートアパレルの実現にこぎつけた。

スマートアパレルは、人に優しいインターフェイスに

これまで存在しなかったスマートアパレルという領域に挑むからこそ、網盛氏は「文化をつくっていかなければいけない」と考える。その一端がe-skinをどう認知してもらいたいかという考え方にも表れていた。

「e-skinはインテルやゴアテックスのような存在になりたいんです。基本的に我々は、BtoBtoCの領域で拡大していこうとしています。その中でe-skinの技術を使っていることが消費者にとっても『ちゃんとした技術を使っている』と思ってもらえるし、事業者にとっても売れるプロダクトになる。そんなブランドとして広げていきたいと思っています」。

e-skinという技術を通し、スマートアパレルという文化作りを進めていこうとする網盛氏。同氏が見つめるのは、スマートアパレルが当たり前に活用され、人が負荷なく情報にアクセスできる社会の姿だ。

「今後、身体の周りに身につけるデバイスは着実に増えてくるでしょう。これまではリストバンド等でしたが、VRやARなどの目元や、音声系も増えている。ただ、こういったものは勝手に情報を取得・やりとりしてくれるツールではない。人に負荷をかけず、情報にアクセスできる『人に優しいインターフェース、人に優しいテクノロジー』こそが今後より求められるようになってくるのではないでしょうか」。